山陰海岸ジオパークでの実践から考える地理学・地理学者の役割

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  • A Practical Study on the Role of Geography and Geographers in a case of the San'in Kaigan Geopark

抄録

1.はじめに<br>ジオパークの「ジオ(geo)」は特定の学問分野を指すものではない.「ジオ」は文字通り「地球,土地」を示す概念であり,ジオパークは地球をテーマとした「大地の公園」である.そして,ジオパークは地球史,生物史,人類史といった歴史が交錯する任意のテリトリーであり,これら時間と空間の諸相を有機的に結び付けたジオストーリーを語る場所でもある.時間と空間を研究対象とする地理学はジオパークにとって「役に立つ」が,あまりその重要性は認識されておらず,現場サイドでも地理学者の参加は比較的少ない.<br> そこで本報告では,山陰海岸ジオパーク(以下,山陰海岸)での実践から,学問としての地理学の役割,研究者としての地理学者の存在意義について考える. <br><br>2.地理学の役割 <br> 学問としての地理学の役割について,以下の2点を挙げたい.まず,ジオサイトの解説やインタープリテーションに地理学的視点やこれまでの研究成果を導入することである.海外のジオパークにおいても,地理学的観点からのジオサイト整備は,その必要性が指摘されるものの,アラカルト的な説明に終始し,地理学的視点からの解説が十分に行われているとは言い難い.<br> そこで報告者は任意地域の自然現象と人文現象,それらの相互関係を解明する地誌学がジオパークにとって必要不可欠な学問分野であると考え,山陰海岸の湖山池ジオサイト整備にあたり,地誌学的な観点を導入した看板やパネルを作成した(新名2012).その結果,潟湖の発達史と周辺の地域変容の関係性を示す重層的なジオストーリーを構築することができた.さらに,インタープリテーションに地域変容の観点を導入した.ジオパークは時間と空間を扱うが,その基準は現時点の景観にある.基準となる現時点の景観を読み解くところから始まり,時間軸を過去へ進めながら,現代の景観に至るまでの転換点を紹介し,他地域とのつながりへと展開することによって湖山池に対するビジターの関心が高まった.<br> 次に,ジオパークマネジメントに地理学的視点を導入することである.ジオパークそのものを研究対象に拠点施設やガイド団体の分布,ビジターの特性,学校教育での活用など多岐にわたるジオパークに関係する事象を明らかにすることでジオパークの実態が解明され,これらの成果はマネジメント計画立案の際,基礎となるだろう.例えば,山陰海岸の3府県では主要な地方新聞・テレビ局が異なるため,マスメディアでの情報共有が難しいことが明らかとなり,日常的な情報交換にSNSを活用することが有効であることが判明した(新名2013).このようにジオパークマネジメントの基礎データを提供することに加え,ジオパークに対する批判的検討を行うことも時間と空間を扱う地理学が果たすべき役割であろう. <br><br>3.研究者としての役割<br> ジオパークマネジメントの基本はコミュニケーションにある.ジオパークはボトムアップ型の運営による「持続可能な発展(sustainable development)」の実践を求めているため,上意下達の単方向コミュニケーションではなく,アクター間の双方向コミュニケーションを取る必要がある.また,このコミュニケーションを円滑に進めるためにはローカルコミュニティ,パブリックセクタ―,営利・非営利団体,学校,博物館,研究者・専門家等のアクターがジオパークに参加し,ジオパークのテリトリー内外に多様なネットワークを構築する必要がある.<br> 地理学者に限らずジオパーク活動に参加する研究者は,知識創造者,情報拡散者,インタープリター・翻訳者,人的ネットワークの結節点といった役割を担う存在である(Niina 2013b). 山陰海岸は2010年に世界ジオパークとなり,翌年,ギリシャのレスボス島ジオパークと姉妹提携を結んだ.2012年からはレスボス島で開催されるサマースクールに研究者が参加し,山陰海岸の取り組みも紹介している.一方,山陰海岸で開催される国際会議にギリシャから研究者を招いた.地理的距離や言語問題もあることから,地域住民による日常的な交流が困難である.そこで,研究者間交流を進め,そこで得られた知見を翻訳して山陰海岸に伝えることにより,世界レベルでの議論を共有している.岩石学,堆積学,地理学分野の研究者が中心となって開催する「ジオ談会」では,各アクターとジオパークに関する地域内外,国内外のトピックを議論し,コミュニケーションの場を提供している. 

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205696632320
  • NII論文ID
    130005473792
  • DOI
    10.14866/ajg.2014s.0_100251
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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