地域公共交通が地域を救うために
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- 加藤 博和
- 名古屋大学
書誌事項
- タイトル別名
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- To Save Local Community by Local Public Transport Service
- 空間データ整備がカギ
- The key is management of spatial data
説明
地域公共交通事業は、大都市圏を除いて赤字基調であり、公的補助なくして維持困難となっている。それゆえ、地域・利用者のニーズに応えるサービス提供が難しく、新しい技術やビジネスモデルの導入も滞っている。既存の地域公共交通事業が革新し、ニーズに応えられるようになることが求められる。<BR><br> その際、どうしても必要なのが、地域公共交通に関するデータの収集、整理、公開、そして利用可能性の向上である。本稿ではその現状と改善の方向性について概説する。<BR><br> 公共交通を利用する際、鉄軌道の情報は比較的容易に得られるが、路線バスやタクシーについてはそうでないというのは多くの人が実感しているであろう。路線バス網は鉄軌道より複雑で、把握し使いこなすのは難しい。それ以前に、バス事業者や自治体などが路線図や時刻表などの作成・配布をあまり行っておらず、あったとしても各事業者(時には担当営業所)別や自治体別になっていたり、デザインが見づらく分かりにくいものが多い。駅や停留所における案内も同様である。タクシーも駅前に行けば待っていると思いきや、地方では電話しないときてくれないところや、そもそもタクシー会社がないところも増えている。しかしそれを事前に調べるのは難しい。インターネットで検索してもほとんど分からないのである。これでは利用増加は望めない。<BR><br> とはいえ、営業内容は実際に行って調査すれば把握できる。その実践例として、著者も参画する任意団体「地域公共交通利用促進ネットワーク(http://www.rosenzu.com/net/)」では愛知・岐阜・三重県の路線バス情報を収集・整理し、インターネットで提供する活動をボランティアで続けてきた。ただしそれには多大な労力が必要であると実感している。さらに、利用状況データを得るのはもっと難しい。内部情報ということで出してくれない場合もあるが、路線バスだと、系統別収支や停留所別乗降客数のような基本と思えるようなデータさえ、デジタル化以前にそもそも存在していないことが普通なのである。著者は「地域公共交通プロデューサー」として各地で路線網の見直しに携わっているが、検討に必要なデータがほとんどないことが大きな障害となっている。使えるデータと言えば、許可申請や補助金を得る際に必要となるものばかりで、それ以外のことは特別に調査費を使って調べなければならず、それゆえに断片的なものしか得られない。<BR><br> 地域公共交通事業がデジタル化・IT化に遅れているのは、原資がなく必要性やメリットも感じていないためである。近年では、マーケティングの考え方を取り入れてデータ収集・活用を進めて結果を出す事業者も出てきているが、大半はなすすべがない状況にある。これを打破するためには、まず営業内容に関するデータ、路線バスなら系統や停留所、ダイヤといったものをデジタル化し、標準的な地図・空間情報データとオーバーレイできるようにする必要がある。これによって、リアルマップ形式の路線図作成や、乗換検索サイト等へのスムーズな情報提供が可能となる。<BR><br> 現状ではデータは個別に収集されていて、例えば各乗換検索サイトが事業者から得たデータを入力や変換するなどして利用にこぎ着けており、大きな作業ロスが生じている。また、停留所位置データは国土数値情報で提供されているものの、2010年時点での調査結果のみであり、日々変化するバス路線に合わせた更新のしくみが全く考えられていなかったため、変遷や現状の把握に使用できない。ところが、バス路線については各事業者から国へ運行許可申請が行われており、その書類の中にあらゆるデータが含まれている。その申請を電子化するとともに、公表可能なデータについては標準化されたフォーマットでオープンデータとして出力できるようにしておけば、補助金申請等でも活用でき、ダイヤや勤務割などの作成、そして停留所時刻表の出力といった、手間がかかる業務も省力化できる。ムダな入力や調査が省け、データ活用による案内の充実にも注力できる。それがインターネットで公開されれば、外部でも活用してもらえるようになる。<BR><br> 利用状況データも、技術的にはICカードや乗降センサーなど様々な方法でリアルタイム収集可能となっており、実際にログとしてたまっている場合も多いが、大半の事業者はそのビッグデータをほとんど活用できていない。空間情報データと合わせて用いれば、サービス見直しも効率的かつ科学的に進めることができる。<BR><br> こうして地域公共交通事業が情報をうまく収集・活用したマーケティングを取り入れることができれば、地域公共交通事業とそれがもたらすサービスが持続的に改善され、地域のニーズに応えることが可能となる。<BR><br>
収録刊行物
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- 日本地理学会発表要旨集
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日本地理学会発表要旨集 2017a (0), 100188-, 2017
公益社団法人 日本地理学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205696685696
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- NII論文ID
- 130006182711
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可