地方移住の意義と三重県の実態

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タイトル別名
  • Social meaning of Rural migration and the Rural migration policy of Mie Prefecture

抄録

2014年5月,増田寛也元総務大臣を座長とする日本創生会議の人口減少問題研究会が発表した2040年に全国の896自治体が消滅の可能性があるという「消滅可能性都市」のレポートはメディアを騒がせたほか,地方自治体に大きな衝撃を与えた。これまで一部の問題として語られていた「過疎問題」や「限界集落」といった言葉が「消滅」という過激な言葉で多くの自治体に突きつけられた。 ある種のショック・ドクトリンとも言える「消滅自治体論」から半年,2014年9月の第2次安倍内閣の発足に伴う地方創生の柱として「まち・ひと・しごと創生本部」が閣議決定により設置され,同12月には「まち・ひと・しごと創生法」が施行された。この地方創生の指針となる「まち・ひと・しごと創生総合戦略」において「地方への人の流れをつくる」と都市部からの地方移住が明確に位置づけられ。その後,都道府県および市町村でも「まち・ひと・しごと創生総合戦略(地方版総合戦略)」の策定の指示が出された,全国で人口減少対策としての地方移住者受け入れが始まった。 これまでもリゾートブーム〜バブル期における脱サラ・ペンション起業といった動きや,2007年の団塊世代の大量退職に伴い増加してきたシニア移住など,さまざまな社会変革期において地方に向かう動きが起こっている。2008年に発生したいわゆるリーマンショック以降の金融危機に始まる経済不況から発した雇用不安もあり,比較的若い20代から30代の移住相談もこの頃から増加しはじめている。また2011年にもう一つの動きがあった。東日本大震災を契機とした子育て世代の地方志向である。2011年は30代の割合が27%に急上昇した,その中には「疎開的移住」とも言える福島原発事故による首都圏での放射性物質の飛来や首都圏直下型地震がいつ来るかわからないという不安からの子育て世代の相談が多く寄せられた。 かつての地方移住は「田舎暮らし」を求める中高年が多かったが,成熟・縮減社会の中で「自分らしい暮らし」を求めて地方都市を含む「地方」に向かう若者が増えてきた。また,若年層のUターン希望者が増加していることから,都会を経験し,様々なネットワークを持つ若い世代を地域活動の担い手としての活躍の場を創り出していくことが,新たな移住者を呼び込む良い循環を生み出していく。 最近,若い移住者が自ら楽しみながら空き家を再生していくセルフリノベーション等の動きが出てきている。このような動きを松村(2016)は「第3世代の建築の民主化」として紹介しているが,地域を「住みつなぐ」主体は必ずしもその地域出身の人だけである必要はない。さらに国土交通省によるDIY賃貸住宅のガイドライン策定や,「民泊」解禁も地方に向かう若者のゲストハウス経営といった,新たななりわいの創出の可能性を高めている。当然,移住者に選ばれる地域には生活文化に基づいた魅力的な暮らしと,それを伝える魅力的な住民の存在が鍵となる。持続可能なまちづくりの原点はそこに住む人が「住み続けたい」と思うことであり,そこに住み続ける矜持を保つためにも,地域全体の価値を高めていく必要がある。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205696727168
  • NII論文ID
    130006182724
  • DOI
    10.14866/ajg.2017a.0_100152
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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