最終氷期最寒冷期以降の一の目潟における陸水環境の変化

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  • Variations of limnological environment since the LGM inferred from the sediments of Lake Ichi-no-Megata maar, northeast Japan

抄録

発表では、一の目潟ボーリングコアを用いて、新しい編年モデルを構築し、高時間分解能地球化学分析に基づき、26,000年前以降の東北日本の陸上古環境変動を復元した結果を報告する。秋田県男鹿半島に位置する一の目潟では、2006年秋、湖中央部においてシンウォールコアリングによる平行コアリング法(Nakagawa et al., 2012)によって、湖底下から約37mまで完全な連続堆積物(IMG06コア)を採取している。IMG06コアのコンポジット深度-年代モデルを構築する際、イベントフリー編年モデルを作成した。つまり、堆積物中で、層厚1cm以上褐色層(上方細粒化の構造あり)をイベント層として、これら一過性の堆積物を除外したイベントフリー・コンポジット深度に対して、合計74個の放射性炭素年代値から求めた暦年代値をプロットして、編年モデルを作成した。なお、イベント層は、全層にほぼ均一に挟在し全体の約4割を占めることが明らかになった。その結果、過去28,000年間において、堆積速度の異なる3つのステージが存在して、0.5~16 ka、16~24 ka、24~28 kaで、それぞれ0.325、0.463、0.786 mm/yearと求められた。また、コアの表層部(コンポジット深度で0~80 cm)は、年縞計数により、435年分の堆積物であることも示された。次に、気候プロキシーによる環境変動を明らかにするために、深度26.1mより上位の年縞堆積物の部分(タービダイト層は含まない)の試料(n=887)についてCNS元素分析及びICP-AESによって総数17の主要及び微量化学成分量を求めた。分析の試料間隔は平均15 mmであり、分析用試料は層厚2~10 mmで分取し、その時間分解能は最大で30年と見積もられた。これらの高時間分解能試料を用いた無機分析結果に基づき、気候プロキシーを用いて推定された過去26,000年間の男鹿半島周辺の気候変動は、大局的に15 kaまでは寒冷乾燥期、15-9 kaは、寒冷乾燥期から温暖湿潤期移行期、9 ka以降は、温暖湿潤期となっている。また、変動の振幅の激しさは、15-9kaで最も大きくになる一方、9ka以降では中間程度、26-15 kaでは極端に小さくなっている。とくに、晩氷期の気候変動に着目すると、今回の一目潟堆積物の記録は、15 kaより緩やかな気候温暖湿潤化が生じており、その中で、14 ka付近と、12.5-11.3 kaに、一時的な気候寒冷乾燥化傾向が認められる。このような傾向は、琵琶湖堆積物の記録と同調する一方、中国の石筍やグリーンランドの氷床コアの記録とは類似しない。この原因として、男鹿半島周辺の気候変動が、アジアモンスーンのような大気循環の変化よりも、海水面の急激な上昇による対馬暖流の流入による気候変動の影響を大きく受けた可能性があげられる。15 kaからのゆるやかな温暖化傾向は、14.6 ka頃の海水準変動の急激な上昇(MWP1a:Yokoyama and Esat, 2011)にともない、それが対馬暖流の日本海への本格的流入を促し、それが、男鹿半島で徐々に気候温暖化を生じさせたと解釈される。一方、ヤンガードリアス期は、男鹿半島では12.5-11.3 kaあたりに存在しているものの、そのシグナルは弱い。これは、男鹿半島のような日本列島の日本海沿岸地域では、顕著にあらわれなかった可能性がある。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205696747776
  • NII論文ID
    130005473417
  • DOI
    10.14866/ajg.2013s.0_78
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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