山梨県山中湖村におけるスポーツ合宿地域の持続システム

書誌事項

タイトル別名
  • Sustainable system of region for sports camp in village of Yamanakako, Yamanashi, Japan

説明

Ⅰ 序論<br> 21世紀には「持続可能な観光」の創出が世界的課題になるとされ(石森 2001),自律性や持続性を重視する観光地域への転換が求められている.また,コルブ(2007)は,経済的困難に直面するまちを健全にする方策としてツーリズムを挙げ,訪問者と住民双方のニーズに即したサービスの提供の必要性を述べている. スポーツを特に目的とする非日常生活圏でのツーリズムをスポーツツーリズムと呼ぶ.その中でもスポーツ合宿は,日本における代表的かつ伝統的な形態で,また日本特有のものとされている(原田・木村編 2009).観光庁による「スポーツ観光」の推進など行政による都市経営戦略としてもスポーツが注目されている. スポーツ合宿に関する既往研究は観光地理学とスポーツ産業論の分野でなされている.観光地理学ではホストである宿泊施設の分析が,一方スポーツ産業論ではゲストであるスポーツ合宿者の分析が中心であり,双方を体系的に分析した研究はみられない. そこで,本研究ではスポーツ合宿によって生計を維持してきた地域を「スポーツ合宿地域」とし,その持続性を明らかにする.<br>Ⅱ 研究方法と研究対象地域<br> スポーツ合宿地域である山梨県山中湖村平野地区について,ゲストであるスポーツ合宿者の特徴を,定着の程度,年齢層に基づいて分類して明らかにする.またホストである宿泊施設については,所有する付属施設に注目し,経営形態を明らかにする.これらをもとに,ゲストとホストの相互関係や要求条件を述べ,スポーツ合宿地域の持続システムを考察する.<br>Ⅲ 結果と考察<br> 大半のスポーツ合宿者の来訪要因が,合宿を専門的に扱う旅行代理店である合宿エージェントの利用によるものであり,その多くが宿泊施設への要求条件が厳しくない大学生や一般のテニスサークルであるため,山中湖村に定着しやすかったといえる.定着期間が10年以上の合宿者も多い.また,近年は東京大都市圏から小学生のサッカーや野球クラブの来訪が増加しているが,これらはなるべく長い練習時間を確保するために居住地との近接性や冷涼な気候を求めたこと,練習場所のグラウンドが平野地区に多いことに起因している.スポーツ合宿対応の宿泊施設は93軒で,収容人数は20~300人と幅がある.テニスコートなど付属施設によって多角型,2施設型,単一施設型に大別できる.家族経営中心で,誘客は原則各宿泊施設に任せられているため,合宿エージェントと取引するか否かは各宿泊施設の判断であり,宿泊施設間の競争意識がみられる.一方で,合宿者側の人数の年々変動など個別の都合によって山中湖村での合宿を希望しなくなる場合も当然ある.各宿泊施設は毎年来訪する合宿者では満たせない空室分を合宿エージェントによって満たそうと行動する場合が多い.これによって,新規の合宿者が毎年ある程度来訪することになる.<br>Ⅳ 結論<br> 新規顧客から定着する顧客を多く生み出すことに宿泊施設側が注力してきたことと並行して,毎年生じる可能性がある空室分を主に合宿エージェントからの誘客によって満たすことで新規顧客の獲得につなげている.このことがスポーツ合宿地域としての持続性に寄与しているといえる.これを可能にしている基盤として東京からの近接性,山中湖村の冷涼な気候,多数の多様な宿泊施設の存在,宿泊施設間の競争意識が挙げられる.

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205696752896
  • NII論文ID
    130005473764
  • DOI
    10.14866/ajg.2014s.0_100221
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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