阪神・淡路大震災によって被災した商店街における商店主の意思決定

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  • Storekeeper's decision making in a shopping street hit by the great Hanshin-Awaji Earthquake Disaster

抄録

1.はじめに<br> 1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災(以下,震災)は兵庫県南部地域に甚大な被害をもたらした.震災後,特に被害が甚大だった新長田駅南地区は震災復興再開発事業の対象地域に指定された.これまで,この地区に関しては震災復興再開発事業の是非や評価を巡ってさまざまな議論が行われてきた一方で,事業が進む過程で商店主が復業するか,あるいは廃業するかの意思決定にどのような要因が働いたのかについてはあまり研究が行われてこなかった.しかし,商店主の復業・廃業要因を分析することは復興に必要な要素を明らかにするという点で重要であると考えられる.本発表では商店主の意思決定に焦点を当て,商店主が復業・廃業の決断をするに至った要因・背景について現時点で可能な考察と展望を述べたい. <br><br>2. 対象地域と方法<br> 大正筋商店街は神戸市の中心部から西におよそ5kmの場所にあり,震災復興再開発事業・新長田駅南地区第1地区に位置している.発表者は大正筋商店街振興組合加盟店舗と,旧丸は市場(震災以前に大正筋商店街に隣接した小売市場)に関係する店舗の合計50店舗を対象に直接訪問配布・回収形式でアンケートを行い,同時に大正筋商店街振興組合役員を含めた商店主やまちづくり会社への聞き取り調査を実施した.アンケート調査は86%に当たる43店舗から回答を得た.また,発災後数年間にわたって再開発実施のために作成された各種資料の一部から得られたデータを基に震災当時営業していた店舗の分析を進めている.さらに今後は営業を継続している商店主の協力を得て廃業者についての調査を実施する. <br><br>3. アンケート・聞き取り調査結果<br> アンケート結果によると,現在震災前から現在に至るまで営業継続中の商店主が営業再開を決意するにあたって大きく影響したのは「元の場所で営業を続けること」,「顧客との関係を維持すること」,「再開発事業による商店街活性化への期待」であった.聞き取りでも「たとえ時間や費用がかかったとしても元の場所で営業したかった」との声があり,実際に営業を大正筋商店街で継続できていることには多くの復業した商店主が満足している.その一方で商店街の活性化についてはほとんどの商店主が不満を抱いており,現在商店街が抱える問題として筆頭に上がったのも「商店街がさびれている」という項目であった.また,アンケート調査や聞き取り調査等の結果によれば,震災前から営業している店舗の商店主には店舗や土地を自己所有している商店主が多いことがわかった. <br> 他方,商店主が廃業した要因については今後廃業者に関する調査を行っていくこととなるが,現在営業中の商店主や当時の振興組合役員への聞き取り調査に基づくと,廃業の大きな要因は「商店主の高齢化」,「資金難」,「再開発事業の長期化」の三つであると現時点では考えられる.震災当時,商店主の高齢化は問題となりつつあり,さらに地元の産業であるケミカルシューズの衰退によって従来の顧客の減少が生じていた.その状況下で震災が発生したことと,その後震災復興再開発事業に長い時間を要していることが商店主の廃業を促進したと推察される.報告では廃業した商店主の廃業要因についても言及する. <br><br> 4. おわりに<br> 大正筋商店街は全域が震災復興再開発事業の対象となったことから,事業全体の進行が注目されてきた.実際に再開発に伴う商店街の活性化への期待が復業を決意する一つの要因になったケースもあるため,再開発事業は復業への決断に一定の影響を与えたと考えられる.一方でこれまで述べたように復業や廃業を決意するにあたっては,商店主自身の希望と店舗の所有形態等の属性との双方が関係しており,それらの相互作用によって意思決定がなされていると言える.これらの要因が具体的にどう関係しているか,特にどの要因が意思決定に大きな影響を与えるのかといった点については今後さらなる検証が必要であろう.<br>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205696780160
  • NII論文ID
    130006182765
  • DOI
    10.14866/ajg.2017a.0_100167
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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