落葉広葉樹の個体サイズごとの空間分布パターン

説明

1. 目的<br> 森林の群集における種多様性は個々の種の空間分布パターンの形成過程と密接に関連する。Janzen(1970)とConnell(1971)は主に熱帯雨林において、成木付近には種特異的な菌類や捕食者が多いために種子や実生、稚樹が同種成木からの距離および密度依存的に減少するという現象を見出し、子個体は親から離れたところで更新し、ひいては森林の種の多様性を促すという仮説を提唱した。この仮説は近年、温帯林においてもいくつかの種で種子や実生レベルではあるが成立することがいくつか報告されている。しかし、このようなJanzen-Connellメカニズムが種子・実生・稚樹段階のみならず、その後の生育段階までにも作用し続け、ひいては成木の分布を決定しているのかは明らかではない。本研究では落葉広葉樹林を対象とし、その主要構成樹種について、個体サイズによって更新木と成木の二つのグループに分け、それぞれの分布様式やサイズグループ間での分布相関を解析し、温帯林におけるJanzen-Connellメカニズムの作用過程の検証を試みた。<br>2. 調査地および調査方法<br> 宮城県一桧山県有林内の落葉広葉樹林に240m×250m(6ha)の調査区を設置した。調査区にはブナ、ミズナラなどが優占し、樹種数は66種であった。調査区を20m×20mのコドラートに区分し、DBH≧5cmの個体全てについて、樹種、DBH、位置を記録した。調査区内に優占する上位の7種のうち、地形aに依存しない分布をしていた樹種3種(ホオノキ、イタヤカエデ、ミズキ)に関しては全調査区で、地形に依存した分布をしていた4種(ブナ、トチノキ、アオダモ、ウワミズザクラ)に関しては調査区全体と地形区分に分けて空間分布の解析を行った。<br> 更新木と成木グループの区分は、樹種ごとに繁殖開始サイズと直径階の頻度分布から任意に決定した。<br> 空間分布を評価するためにK関数(Ripley's K(t) )を線形化したL関数を用いた。更新木と成木グループの分布様式は、L関数の値がモンテカルロシュミレーションによって決定した信頼区間より大きい値であれば集中分布、区間内であればランダム分布、小さい値であれば規則的な分布であるとした。分布相関は、2変量のL関数を用いて検定した。<br>3. 結果と考察<br> 7種について更新木と成木間の分布様式を比較した結果、3種について両者が排他的な分布様式を示した。<br> ブナ(地形区分)、アオダモ(調査区全体)の更新木は集中分布をし、成木個体から約10m以内の範囲でランダム分布、それ以降では集中分布をしていた。また、成木個体と更新木は排他的な分布傾向を示した。ホオノキも同様に成木・更新木間では、個体間距離が15m以内で同所的な分布をするが、それ以降では排他的に分布をしていた。これら3種は程度の差はあるものの、同種成木の近くに成木の候補木が少なく、同種成木から遠く離れた所に更新適地があることが示唆される。また、このような排他的なパターンは、更新木のサイズに至る前の実生や稚樹段階において、同種成木付近での死亡率が高いといったJanzen-Connellメカニズムが作用したことを示唆している。<br> 一方、イタヤカエデとミズキは成木・更新木間での分布様式の変化は見られず、両種ともランダム分布であった。両樹種とも成木・更新木間では同所的に分布していたことから、今回の解析スケールではJanzen-Connellメカニズムは作用していないことが示唆される。<br> 今後はさらにサイズの小さい実生・稚樹クラスの個体の分布を解析することで、種子から成木にかけての生育段階全般にわたる空間分布の変化について検討したいと考えている。<br>a地形区分および地形依存性は「落葉広葉樹林の樹木の分布パターンに与える地形の影響」(寺原ほか,第115回に本林学会大会ポスター発表)を参考にした。<br>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205702438144
  • NII論文ID
    130007019220
  • DOI
    10.11519/jfs.115.0.p5044.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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