三重県尾鷲ヒノキ林業地域における皆伐跡再造林放棄地の植生更新状況

書誌事項

タイトル別名
  • Regeneration of abandoned forests after the clear-cuttinng in the Owase region , Mie Prefecture

説明

1.はじめに 尾鷲ヒノキ林業地域においても皆伐後、再造林されずに放置されている林分が近年増加している。当地域ではほとんどの伐採跡地でウラジロやコシダが著しく繁茂し、ほぼ全面が覆われるため木本類の更新が阻害されている。このような状態の伐採跡地を早期に低コストで森林の状態に戻していく技術開発が求められており、そのための基礎資料として現在の植生とその成因について把握する必要がある。そこで本研究では伐採後6年から16年経過した伐採跡地と隣接するヒノキ人工林において植生調査を行い、伐採後の植生更新状況を明らかにするとともに、ウラジロ・コシダの現存量や隣接ヒノキ人工林の林床植生との関係をみることから皆伐後に更新する植生の成立要因について考察した。2.調査地と方法 調査地は三重県尾鷲市内の標高110mから265mに位置する伐採後6年経過した1林分、8年経過した2林分と16年経過した1林分の合計4林分において、林分内の斜面上部と下部、南向斜面と北向き斜面などのように植生の相観が異なる部分に100m2(10m×10m)の調査区を合計8箇所設定した。また、それぞれに隣接するヒノキ人工林内においても同様に調査区を合計7箇所設定した。 各調査区において2002年11月中旬から12月中旬にかけて樹高1.3m以上の木本種について毎木調査や土壌調査、植生調査を行った。各伐採跡地の調査区外から更新木を5から10本程度地際から伐倒し、年輪数を数えた。各調査区内の2箇所から1m×1m枠内のウラジロ・コシダの乾重を測定し、ウラジロ・コシダの植被率(%)から100m2当たりの現存量を求めた。3.結果と考察 伐採跡地において、斜面下部の土壌のA層が比較的厚い(15cmから20cm)箇所に設定した調査区以外では高さ120cmから150cm程度のウラジロやコシダが調査区内の90%以上を覆っていた。ウラジロ・コシダの現存量は伐採後経過年数に関わらず斜面下部で少なく0.01kgから17.9kg/100m2、その他では73.3kgから238.8kg/100m2であった。隣接する林内においても同様の傾向がみられた。林内では伐採跡地よりも少ない傾向がみられた。各調査区に出現した総出現種数は伐採後の経過年数に関係なく伐採跡地では15種から40種、林内で4種から38種であった。斜面下部の調査区で出現種数は多い傾向がみられた。また、調査全体で確認できた種数は伐採跡地で95種、林内で76種、木本種はそれぞれ52種、35種であった。伐採跡地と林内に共通して出現した木本種は28種で高木性種はスダジイ、アラカシ、カンザブロウノキなど13種であった。共通して出現する種の伐採跡地における常在率と林内のそれとの間には正の相関がみられた。伐採跡地のみに出現した木本種は24種で高木性種はアカメガシワなど先駆種や鳥被食散布型種子を持つ陽樹など10種であった。林内のみに出現した種数はわずかで、伐採跡地でみられる種構成はヒノキ人工林内に下層植生としてみられる種に先駆種などを加えたものになると考えられた。 木本種の植被率や平均樹高、胸高断面積合計は伐採後、年数の経過とともに大きくなる傾向がみられた。また、斜面下部の調査区で大きかった。木本種の植被率は伐採後16年経過した林分の斜面下部で98%であった他は0.05%から60%で樹冠は閉鎖しておらず疎林状態であり、階層構造もはっきりしなかった。それらの調査区で樹高1.3m以上の木本種の本数は経過年数に関係なく31本から249本であったが、主幹のみの本数でみると10本から57本、高木性種に限れば5本から28本と少数であった。胸高直径階別の主幹のみの本数分布をみると樹冠が閉鎖していないにも関わらず山型分布か、弱いL字型分布を示しておりウラジロ・コシダの影響や、影響の少ない斜面下部などでは獣害の影響を受けて新しい個体の加入がほとんどないと推察された。また、森林状態に戻っている伐採後16年経過した斜面下部では主幹のみの本数が125本、高木性種で57本あることから考えると、それと同程度かそれ以上の本数が必要であると考えられるため、今後これらの林分が早期に森林の状態に戻っていくことは困難であると考えられた。 木本種の本数や木本種数とウラジロ・コシダの植被率あるいは現存量との間には有意な関係がみられなかった。年輪数計測によると更新木は伐採の数年前から伐採後2年以内に発生していた。これらのことより伐採前から侵入していた下層植生に由来する萌芽更新木や伐採後、ウラジロ・コシダが繁茂する前に速やかに侵入した先駆種の更新木が伐採跡地の主要構成木となり、伐採跡地でみられる本数や種組成に反映されると考えられた。伐採後、速やかに植生を更新させていくためには伐採前から多くの木本性の下層植生が侵入するように適切に間伐などの施業を行う必要がある。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205702572288
  • NII論文ID
    130007019347
  • DOI
    10.11519/jfs.114.0.305.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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