東北地方におけるアキタブキの性表現

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  • Floral morphology and gender variation of Petasites japonicus (Compositae) in Northern Japan

抄録

1.はじめに<BR> 花は植物にとって次世代を残すために重要な器官であり、種ごとの多様な花の形態や性表現は繁殖戦略に大きく反映する。アキタブキ(フキ)は、小花の集合体である頭花(以降「小花序」)が集まった花序をもつ雌雄異株植物である。メス花序は、多数のメス小花に花粉がなく雌しべが不稔の両性小花の加わるメス小花序で構成される。オス花序は、花粉があり雌しべが不稔の両性小花のみのオス小花序で構成される。フキの花序のほとんどはこの2つの表現型であるが、中には花粉があり雌しべが不稔の両性小花に加えてメス小花を少数持つ「オスメス小花序」を有する花序(「オスメス花序」と呼ぶ)も出現する。本研究ではフキのオスメス花序について、地理的な分布特性を明らかにし、花序、小花序、小花のそれぞれのレベルで花の形態を調べ、オスメス花序の形態的特性について検討した。<BR><BR>2.調査方法<BR> 1) 花序表現型の分布<BR> 調査地を秋田県の5か所、岩手県の2か所、宮城県の2か所の計9か所とし、各花序表現型(メス花序、オスメス花序、オス花序)の分布を調べた。これらの調査地の計398花序を観察して花序表現型を記録し、計数した。<BR> 2) 花の構造<BR> 観察した花序から花序表現型ごとに3花序ずつ計9花序を抽出し、実体顕微鏡下で小花序と小花序に含まれる小花をそれぞれの表現型ごとに計数した。<BR> また、小花には花冠等に変異のある多型が存在した。そこで、各花序表現型における小花の多型の出現傾向を知るために、花序表現型それぞれから抽出した1花序ずつ計3花序を対象として、小花の多型を分類した。まず、小花を葯の有無によってメス小花と両性小花に分類した。次に、子房、花冠、雌しべ、冠毛の4部位のそれぞれについてメス花序のメス小花の形質(メス型)とオス花序の両性小花の形質(両性型)の2型に分け、これらをもとに考えられる16通りの小花形態(メス小花を両性小花あわせて32タイプ)に分類し、その出現頻度を調べた。<BR><BR>3.結果と考察<BR> 1) 花序表現型の分布<BR> オスメス花序は9か所中5か所(秋田県2、岩手県2、宮城県1)で見られた。このことから、オスメス花序は特定の地域に限定的な表現型ではないと考えられる。ただし、群落内でのオスメス花序の出現頻度は3%から8%で、どの調査地でも低かった。<BR> 2) 花の構造<BR> 花序内の小花序の出現頻度は、花序表現型ごとに異なっていた。メス花序とオス花序では、全ての小花序がそれぞれメス小花序、オス小花序だった。オスメス花序では、花序ごとに比率は異なる(30%から80%)ものの、必ずオスメス小花序とオス小花序が混在していた。小花序あたりの小花数は、オス花序&lt;オスメス花序&lt;&lt;メス花序であった。<BR> 小花の多型の出現パターンは、花序表現型ごとに違いがあった。メス花序では最も多くの多型(11タイプ)がみられた。ただし、メス小花の1タイプと両性小花の1タイプが多く出現した。オス花序では、すべての小花が同一タイプの両性小花だった。オスメス花序では、メス小花と両性小花で2つずつ計4タイプがみられ、メス花序ほどではないものの多型があった。ただし、オス花序と同タイプの両性小花およびメス小花の1タイプが多く出現した。<BR> これらのことから、オスメス花序の構造は、メス花序よりオス花序に極めて近いといえる。また、小花の多型はメス花序で最も出現しやすい傾向があると示唆される。<BR> このようにフキの花序には、変異のある小花が多数みられた。また変異のある小花を有する花序は広い地域からみつかったので、フキではオスメス花序のような表現型を持つ個体に淘汰が働いていない可能性がある。今後、オスメス花序がフキの繁殖成功にどの程度寄与するのか検討する必要がある。<BR>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205703152768
  • NII論文ID
    130007019736
  • DOI
    10.11519/jfs.115.0.p5020.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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