ボルネオ島奥地における観光開発の可能性

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書誌事項

タイトル別名
  • Potentiality of tourism to develop the interior of Borneo
  • A case study of Bario, Sarawak
  • サラワク州バリオを事例として

抄録

マレーシアは主要な木材供給国の一つであり、1980年代後半にかけて年々輸出量を拡大させていた。サラワク州はマレーシアの木材産出の多くを担っている地域である。しかし、森林伐採やプランテーションの造成は土地にかかる圧力を増大させると共に、地域住民の伝統的な生活様式を変容させ、都市への移住を余儀なくされる住民も少なくなかった。また、過剰伐採の対象から免れた集落でも、若者を中心として都市への移住が進行し過疎化の進行、高齢化などが問題となっている。<BR>研究対象地であるサラワク州バリオは、アクセスが空路に限られている僻地である。主な産業は農業(稲作)だが、流通経路が空路に限られるため様々な制限がある。若い世代は教育や雇用の機会を求めて都市へと流出し、他の集落と同様にここでも過疎化が問題となっている。近年、主産業である農業が衰退している現状において、観光業が地域住民に注目されている。そこで、本研究では、バリオにおける観光業の現状を分析するために、観光客にアンケート調査を、地域住民に聞き取り調査を実施し、これらの調査結果と周辺データの分析から、観光業によるバリオの地域開発の可能性を考察した。<BR>観光客にはアンケート調査を行った。バリオ内全ての宿泊施設オーナーに協力を得て、調査期間中、宿泊した全ての客に対し英文で作成したアンケート用紙を配布し、バリオを離れる際に回収することを依頼した。また、地域住民に対しては聞き取り調査を実施した。空港周辺にある9つのロングハウスのうち、サンプルとして空港から比較的近くにあり、観光客との接触が多いと考えられるロングハウス1棟と少し離れた場所にある2棟を選定した。さらに宿泊施設オーナー、ガイド、商店オーナーに聞き取り調査を行った。<BR>調査結果から観光客はトレッキングを通じて自然に親しみ、伝統的な生活様式に触れ、地域の人達との交流を求めてバリオを訪れ、また、これらのことをバリオの魅力であると感じていた。地域住民は観光対象としてほとんどの人が「バリオの自然」を挙げていた。しかし、観光客の多くが魅力を感じているロングハウスや生活様式について言及したのは半数以下にとどまった。観光業に対する期待や不安についての質問では、全員から期待として「収入の増加」が上げられた。不安としては観光客に影響されて、または収入が増えることにより飲酒や喫煙などの悪い習慣を覚えるのではないかということが多く挙げられていた。これらのことから、バリオの魅力としての「自然」については観光客も地域住民も見解が一致していると考えられる。しかし、「伝統的な生活様式」は、観光客は魅力と感じ、地域住民は明確に意識していないと考えられた。<BR>観光業の運営状況の調査から、僻地であることや観光業が地域住民によって運営されていることが、観光による地域社会への影響を少なくしていることが考えられた。しかし、外部資本による利益優先の観光業経営が参入するようなると、地域住民が危惧する習慣や文化の変容や、自然環境の劣化や破壊をもたらすと懸念される。<BR>また、現状では宿泊施設オーナー、ガイドおよび商店オーナーが観光業からの収益の分配を得ており、その他の住民は受動的に関わっているだけであるが、今後、観光業を持続的に育成していくには、住民組織を活用し、住民全体で観光業について検討し、運営していくべきであると考える。<BR>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205703703424
  • NII論文ID
    130007020004
  • DOI
    10.11519/jfs.115.0.f15.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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