当年光合成の多少がブナの結実に与える影響

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抄録

1.はじめに<BR><BR> 多くの樹木では、数年に一度、個体群内で同調して大量に結実すること(マスティング)が知られている。この現象の至近要因を説明する有力な仮説の一つに資源適合仮説がある。この仮説の前提として、マスティングを行うためには同化産物が樹体内で蓄積することが必要であるとされている。<BR> それでは、マスティングを行う種の結実は、開花当年の同化産物にどのように依存しているのだろうか?また、蓄積された同化産物を結実に利用しているのだろうか?<BR> 本研究ではマスティングを行うブナについて、野外実験により、結実枝の同化量を操作することで当年光合成産物の多少が堅果の胚の発達にどのような影響を与えるのかを検討した。<BR><BR>2.調査地の概要<BR><BR> 野外実験は、2000年に岩手県胆沢川流域(胆沢町石淵地区)で、2003年に鳥海山(秋田県矢島町城内)で行った。胆沢町では2000年はブナの豊作年であったが、2003年はまったく花をつけなかった。2003年の鳥海山のブナは並作であった。<BR><BR>3.実験方法<BR><BR>樹冠に到達可能な、開花中のブナ林冠木で行った。胆沢町周辺から3本、鳥海山から2本のブナを調査木に選んだ(それぞれ胆沢1_から_3、鳥海山1_から_2とした)。<BR>ブナの樹冠から、長さ60_から_110 cm、かつ雌花を25個以上含むモジュールを調査木1本につき3_から_15個用意した。<BR> 対象モジュールに、葉を全部摘み取る(全摘葉区)、すべての葉を半分に切り取る(半摘葉区)、そのままにする(コントロール区)の3つの処理区を設定し、光合成器官の量を人為的に操作した。胆沢2を除く4本の調査木にはこれらの処理区を設定したが、胆沢2では、半摘葉区を設定しなかった。<BR> また、隣接モジュールから対象モジュールへの同化産物の転流を防ぐため、隣接するモジュールの基部に環状剥皮を施した。各実験の処理は、葉が十分に展開した直後の5月下旬に施した。9月上旬には対象モジュール全体に袋をかけ、10月下旬に中身を回収した。回収した堅果は、健全、虫害、菌害、鳥獣害、未熟、しいなに区分し、健全堅果の胚の乾重量を測定した。9月以前に落下した堅果については考慮しないものとした。<BR><BR>4.結果<BR><BR> 各処理区の健全堅果の割合は2000年の胆沢では18.5_から_63.6%、2003年の鳥海山では20.5_から_86.7%であった。しいな、虫害の割合は、調査木ごとには違いがみられたが、処理区間では違いはなかった。胚の発達は、すべての処理区で確認できた。健全堅果の胚乾重量は、鳥海山1を除き、コントロール区、半摘葉区、全摘葉区の順に小さくなり(図)、全摘葉区では、コントロール区の59_から_81%になった。 <BR><BR>5.考察<BR><BR> 全摘葉区においても胚の発達が見られたことから、ブナは開花当年の光合成産物がなくとも、樹体内に貯蔵されている同化産物により結実が可能であると考えられる。また、堅果の胚は摘葉の程度が大きいほど小さくなった。よってブナでは当年の光合成産物も胚の肥大成長に利用されていると考えられる。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205704506112
  • NII論文ID
    130007020189
  • DOI
    10.11519/jfs.115.0.b21.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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