パイプが及ぼす斜面崩壊への影響に関する実物大実験

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抄録

パイプによる斜面崩壊への影響に関する実物大実験小西啓仁・小野 裕・北原 曜(信州大農)1.目的 以前から崩壊跡にパイプが多く観察されており、パイプの斜面崩壊への寄与が指摘され、パイプの寄与に関する実験が行われている。しかし、従来の実験は規模が小さく、現地の土砂を用いた例は少ない。そこで、本実験は十分な斜面長を有する人工斜面を作り、現地の土砂を用いて行った。本実験の目的は、降雨開始からの地下水面の形成からパイプ流など各流出過程の経時変化の把握及び、パイプの閉塞による地下水位への影響と斜面崩壊に至るまでのプロセスの把握である。2.方法 斜面に傾斜30°、長さ12m、幅0.6m、深さ0.8mのトレンチを掘削し、水の拡散を防ぐためにビニールシートを敷き、掘削した土砂(マサ土)を埋め戻した。埋め戻し後、周辺土壌と同程度に締め固めた。土層内の飽和透水係数は1.9×10-2cm/secであった。また、土層内に塩化ビニル管を加工した人工パイプ(内径20mm)を底面から15cmの深さで埋設した。なお、人工パイプには4m地点でバルブを取り付けている。土層への給水は人工降雨装置にて行い、降雨強度45mm/hに相当する定常給水とし、崩壊が発生するまで給水した。 観測項目は飽和マトリックス流量、パイプ流量、地表流量、地下水位である。地下水位は斜面下端から0、1、2、3、4、6、8、10m地点にマノメータを設置し観測した(1m及び6m地点は欠測)。 なお、本実験の前日には各流出成分が定常状態になるまで降雨を与えている。3.結果と考察 実験開始後、パイプからの流出が定常状態となった150分にバルブを閉塞した。250分にバルブを開放した後、280分にパイプ下端を閉塞した結果、実験開始から297分で崩壊に至った。崩壊発生時には下端の盛土及び斜面下部0から4mの土砂の一部(約1m3)の土砂が流動化し、斜面下端から約5m流下した。 バルブ閉塞時には4m地点の地下水位が上昇し、5m地点のクラックが伸張、拡大した。このことから、バルブ閉塞によってバルブ上流側1mまでの範囲の地下水位に影響を与えたと考えられる。一方、下端閉塞では0から4m地点で地下水位の上昇が見られた。このことから、下端閉塞により0から4m地点まで影響を与えたと考えられる。これらのことから、パイプの閉塞箇所によって、その影響を受ける地下水位の範囲は異なることが分かった。 次に各流出成分と土層内貯留量の降雨量に対する割合の経時変化から水収支の検討を行った。パイプ流発生前では、土層内貯留量が約90%を占めていたが、パイプからの流出が開始されると、約40%に低下した。降雨量に占めるパイプ流量の割合は45%に達し、全流出成分に占める割合は75%と大半を占めていたことがわかる。バルブ閉塞では土層内貯留量は50%に増加し、下端閉塞では90%に増加し短時間で崩壊に至った。閉塞による土層内貯留量の増加は、パイプ内を流下した水が閉塞点で周辺土層に流出したためと考えられる。つまり、閉塞時の増加量は閉塞点付近の局所的な部分での増加量であり、この局所的な土層内貯留量の増加が土のせん断抵抗力を弱め、崩壊を引き起こしたと考えられる。このように、パイプはその状態によって良好な排水システムとして機能する場合もあれば、崩壊の発生要因となる場合もあることが確認された。 以上のことから、バルブ閉塞と下端閉塞ではどちらの場合も局所的な土層内貯留量の増加を引き起こすが、それぞれの土層内貯留量は大きく異なっており、影響を及ぼす地下水位の範囲に関しても大きく異なっていることが分かった。これは斜面下部になるに従い、パイプ内を流れる水量が多くなることが原因であると考えられる。このことから、たとえパイプ上部が閉塞した場合でも、閉塞点からパイプ外に流出する水量は少量であり、崩壊を引き起こすまでには至らないことが考えられる。逆に下部での閉塞の場合、閉塞点からパイプ外に流出する水量は非常に多く、また、崩壊に至るまでの時間は今回の実験のように短時間であると考えられる。4.まとめ 今回の実験により、パイプの閉塞が斜面崩壊に寄与していることが確認された。また、パイプの閉塞箇所の違いにより、影響を受ける土層内貯留量や地下水位の範囲に違いがあることがわかった。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205704595328
  • NII論文ID
    130007020219
  • DOI
    10.11519/jfs.115.0.b34.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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