落葉広葉樹林内の異なる光環境下で生育するエゾユズリハの光合成特性と窒素利用

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タイトル別名
  • Photosynthetic characteristics and nitrogen use in Daphniphyllum humile, evergreen understory shurb, in duciduous forest

抄録

1. はじめに 新潟県苗場山に多く見られるブナ林の林床には様々な林床植物が生育している。林床は樹冠によって太陽光が遮られるため、樹冠外と比べ制限された光環境である。しかし、林床はgap周辺や林縁では林内と比べ強光条件である。このようにブナ林床には様々な光環境が存在し、そこに生育している林床植物はその様々な光環境を有効利用するための適応戦略を保持していると想像できる。その一つが窒素分配であると考えられる。窒素は生態系で最も不足しがちな元素の一つであり、「窒素をいかに効率よく利用するか」が、植物の適応度を決める一因であると考えられる。一般的に、植物は強光条件ほど、Rubiscoや電子伝達系のタンパク質が多く、Chl含有量/窒素含有量比が低く、Chl a/b比が高いと言われている。そこで本研究では、ブナ林床の異なる光環境下で生育している常緑林床植物であるエゾユズリハを対象とし、光合成特性と光合成タンパク質間の窒素利分配について解析した。2試験地の概況と測定方法 試験地は新潟県苗場山系標高900mのブナ林内の光環境が異なる5箇所(試験地I__から__V)に設置した。ブナ林内の5個所の試験地は林縁から林内にかけて3個所(試験地I__から__III)、gap(試験地IV)とopen(試験地V)に設置した。試験地の各箇所にPPDFセンサー(IKS-27 小糸工業)とデーターロガー(CR10X Campbell Scientific社製)を設置し、10秒毎に測定し30分毎の平均値を記録した。2002年9月上旬に携帯用光合成蒸散測定装置(LI-6400, Li-Cor社製)を用いて、当年生及び一年生の葉の大気CO2濃度下での光-光合成速度、光合成飽和下での葉内CO2-光合成速度を測定した。測定条件は、相対湿度70%、温度22℃である。光-光合成曲線から最大光合成速度(Pmax)を求め、葉内CO2-光合成曲線から最大RuBPカルボキシラーゼ速度(Vcmax)と最大電子伝達速度(Jmax)を求めた。光合成測定後、葉を数枚採取し、色素組成をHPLC及び分光光度計で測定した。また、80℃で3日間乾燥させた葉を用いて、比葉面積(SLA)と葉内窒素含有量を測定した。3. 結果及び考察 試験地I__から__Vの光環境はそれぞれ、11.39, 2.67, 1.39, 3.53, 24.11 mol m-2 day-1であった。葉齢に関わらず光環境が良好な場所ほどエゾユズリハの葉のSLAは低かった。これは、エゾユズリハの葉の形態特性が、林内の光環境に適応しているためであると思われる。また、当年生の葉の光合成特性(Pmax、Vcmax、Jmax)は光強度と正の相関を示した。しかし、一年葉は当年葉に比べ光強度と光合成特性との相関は低かった。また、強光条件下で生育している個体ほど光合成特性は低下し、光環境の違いによる光合成特性の差がなくなっていた。エゾユズリハは光環境により葉の寿命が異なり、強光条件下で生育している個体ほど葉の寿命が短い傾向がある。したがって、測定した9月上旬には強光条件下で生育している個体は老化が始まっており、葉内窒素の回収が生じていることが推察できる。一方、エゾユズリハの当年葉は光環境に応じた窒素を保持し、光合成系タンパク質組成を変化させていることが想像できる。今後、葉内の窒素やChl含有量を分析することで、異なる光環境下で生育しているエゾユズリハの葉の葉齢による窒素含有量やそれの分配の違いを明確にできると思われる。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205704852352
  • NII論文ID
    130007020281
  • DOI
    10.11519/jfs.114.0.88.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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