熊本県におけるシカによる人工林剥皮害の実態把握

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  • Coniferous forest damage of barking by sika deer in Kumamoto

抄録

1.はじめに シカによる剥皮害は,被害木の枯損や材質の劣化を引き起こす原因となり(1,2),林業経営の厳しい現状に一層の追い討ちをかける深刻な問題となっている.剥皮害は採食被害に比べ研究事例がまだ少なく,その発生傾向を明らかにすることは重要である.熊本県では平成12年度から県下320箇所に固定試験地を設定して調査を行っている.今回は,その調査結果を用いて,人工林における剥皮害の実態について解析を行った.2.方法(1)剥皮害発生点と未発生点での立地環境の比較まず,GISを用いて剥皮害発生点(135点)と未発生点(148点)の立地環境を解析した.解析に用いた立地環境因子は標高,傾斜,調査点から半径800m以内の標高および傾斜の平均(以下,標高平均および傾斜平均),道路からの距離および半径800m以内の植生タイプ区占有割合(市街地,耕作地,林業利用地,落葉広葉樹林,常緑広葉樹林,水域およびその他)の計12項目である.これらの環境因子について剥皮害発生点と未発生点で平均値の比較を行った.(2)剥皮害発生確率モデルの構築 樹種(スギ,ヒノキ),林齢および(1)で用いた立地環境因子を用いてロジスティック回帰分析を行い,剥皮害発生確率モデルを構築した.(3)人工林剥皮害発生ポテンシャルマップの作成 構築した剥皮害発生確率モデルを用いて,熊本県全域の人工林について剥皮害発生確率を予測し,人工林剥皮害発生ポテンシャルマップを作成した.3.結果(1)剥皮害発生点と未発生点での立地環境の比較剥皮害発生点と未発生点の間には,標高,標高平均,傾斜平均.道路からの距離および市街地の占有割合に有意水準5%で有意な差があるという結果となった.(2)剥皮害発生確率モデルの構築ステップワイズ法を用いたロジスティック回帰により,剥皮害発生確率モデルを構築した.構築したモデルから予測される確率について50%を基準として発生・未発生と判別したときの正答率は約7割であった.4.考察 立地環境の比較および剥皮害発生確率モデルの構築により,シカによる剥皮害発生と立地環境との関係が明らかとなった.標高の高い箇所で剥皮害が起こるという傾向は,これまでの採食害に関する研究(3)と一致するものであった.また,道路に近い箇所で剥皮害が起こるという傾向は上手く説明することができないが,もしかすると,シカは移動するのに歩きやすい道路を利用しているのではないかと考えられる.

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  • CRID
    1390001205705193088
  • NII論文ID
    130007020431
  • DOI
    10.11519/jfs.114.0.414.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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