森林小流域における溶存有機物の形成・流出機構とその時間変動

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タイトル別名
  • Mechanism and temporal fluctuation of dissolved organic matter (DOM) formation and discharge in small forested watersheds

抄録

背景、目的、手法 多様な有機化合物で構成される溶存有機物(DOM)は、生態的に重要な様々な役割を持っており、森林生態系は陸水生態系のDOMの生産域として重要である。DOMの生態的機能の評価には可動性・生物利用性などの”質”の情報が不可欠であり、またその形成機構を解明するには水文条件の時空間的変動を考慮に入れる必要がある。本研究は千葉県南部の暖温帯に属する流域において、樹齢・林内環境等の異なる隣接した二つのスギ・ヒノキ人工林小流域を対象とし、DOMの形成・流出機構の質的観点を含めた把握と、それらに水文条件・水文過程が及ぼす影響を検討することを目的とした。DOC濃度をDOMの量の指標とし、紫外線吸光度分析と三次元蛍光分析によりDOMの質の解析を行った。<br>結果と考察 降雨流出過程におけるDOMの変動は2流域で同様であり、樹冠・樹幹・リター層からの溶脱と鉱質土層での腐植物質の吸着という一般的なプロセスが支配的であると考えられた。恒常的飽和地下水のDOMは量的・質的に特徴的であり、DOC濃度は斜面内で最も低いが、最も吸着されやすい腐植物質成分とアミノ酸様成分が優占していた。これらのことから地下水DOMの形成には、十分な吸着を受けたDOMと吸着が不十分なDOMが異なる経路で地下水に流入し混合した上で、炭水化物や脂質が微生物により無機化され腐植物質とアミノ酸が残存する、というメカニズムが働いていると推測される。B流域における水の平均滞留時間は渓流水で約2~3年と算定されており、比較的長い地下水滞留が非腐植DOMの無機化を進行させていると考えられた。<br> 非降雨時には、地下水と渓流水はDOC濃度だけでなく主要イオン濃度もほぼ連動していたことから、恒常的地下水が渓流水を構成していると考えられた。従って、対象地における非降雨時の渓流水DOMは上述のような地下水DOM形成プロセスにより決定されていると考えられ、既往研究に乏しい森林流域の地下水帯におけるDOM形成プロセスの重要性を指摘できる。<br> 植生樹高・林内日射・土壌水分・流出率などの2流域における流域環境の差異に反して、斜面部~渓流のDOM動態はほぼ同様であった。周辺の同規模の渓流のDOC濃度は1~8mgC/Lもの幅を示すことから、小流域の渓流水DOMの空間分布の決定には流域の水文地形的要因の寄与が大きい可能性がある。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205712916736
  • NII論文ID
    130005050958
  • DOI
    10.11520/jshwr.26.0.256.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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