黒毛和種精子でのチロシンリン酸化タンパク質の分布状態が先体の安定性に及ぼす影響

説明

【目的】ウシ精子先体の構造的な安定性は個体間で異なるため,先体の耐凍性には大きな個体差が存在する。このような先体の安定性の個体差を新鮮射出精子において検出できる検査法は見当たらない。演者らは黒毛和種の新鮮射出精子での先体の安定性を評価するための分子性状検査法の開発に取り組み,先体主部でのチロシンリン酸化タンパク質(pY-P)の分布状態を指標とする検査法の有効性を検討している。本発表では,一般性状検査で正常に分類された黒毛和種の新鮮射出精子において,先体主部でのpY-Pの分布状態に大きな個体差が存在することを示す(実験1)。またpY-Pの分布状態の違いが先体の安定性に及ぼす影響について検討した結果を示す(実験2)。【方法】一般性状検査に合格した黒毛和種(15頭)の新鮮射出精子を洗浄後に抗リン酸化チロシン抗体を用いた免疫染色に供した。また一部の試料をmKRH液(BSA・NaHCO3不含)中で270分間インキュベートした。その前後の精子に抗リン酸化チロシン抗体とFITC標識PNAを用いた二重染色を施した。【結果】実験1.試料の運動率,前進率,正常先体率および奇形率はそれぞれ70~87%,63~87%,83~95%および3~15%とすべての個体で概ね一定していた。一方,先体主部でのpY-Pの分布状態が正常な精子の割合は22~99%と顕著な個体差を示した。実験2.インキュベーションに伴う正常先体率の低下が20%未満のA群と20%以上のB群に精子試料を分類した。A群ではインキュベーション前後の正常先体率は70%以上で,その大部分は先体主部で正常なpY-Pの分布状態を示した。B群ではインキュベーション前の正常先体率は70%以上であったが,そのうちの約1/3で先体主部のpY-Pの分布状態に異常が認められた。インキュベーション後にはpY-P分布の異常な精子で先体が損傷・離脱する傾向が見られ,正常先体率は40%まで有意に低下した。【結論】黒毛和種新鮮射出精子でのpY-Pの分布状態には大きな個体差が存在し,この分布状態の違いが精子先体の安定性に影響すると考えられる。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205715267328
  • NII論文ID
    130005475103
  • DOI
    10.14882/jrds.107.0_p-24
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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