口永良部島産斜長石巨晶

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • Plagioclase megacryst from Kuchinoerabu Island

抄録

口永良部島東部の湯向海岸に露出する安山岩中に、直径が最大1.5cm程度の斜長石巨晶が発見された。EPMAを用いた化学分析により、灰長石(CaAl2Si2O8)成分が90%前後であり、最周縁部において数%曹長石(NaAlSi3O8)成分に富むものの結晶全体として組成的にほぼ均質な斜長石であることが明らかになった。その母岩は口永良部島火山活動史の第4期火山 (松本, 1934)である高堂森火山から噴出したと考えられ、蛍光X線分析により、SiO2成分は58wt%程度で、カルク・アルカリ岩系の安山岩であることが判明した。西日本火山帯においては、薩摩硫黄島、開聞岳火山から灰長石巨晶を産するが、その母岩はいずれもカルク・アルカリ岩系の玄武岩質安山岩である。東日本火山帯に産するソレアイトまたは高アルミナ玄武岩中の灰長石巨晶については、島弧におけるマグマ混合の最盛期を凍結した「示相鉱物」としてその生成過程が総括的に考察された(Kimata et al., 1995)。薩摩硫黄島および開聞岳火山産灰長石巨晶の鉱物組織や包有物、その他の微量長石端成分や格子定数についての結晶化学的特徴は、東日本火山帯に産する灰長石巨晶と類似しているため、同様の生成過程が推定された。しかしながら、これまで口永良部島産斜長石巨晶については詳細な記載が行なわれておらず、それに基づいた成因の解明もなされてこなかった。そこで、口永良部島産斜長石巨晶について鉱物学的な特徴を記載し、他地域に産する灰長石巨晶と比較することによりその生成過程を検討する。 口永良部島産斜長石巨晶は、無色透明または白色で(010)、(001)が発達した自形結晶あるいは集斑晶として観察される。共生する斑晶鉱物は、斜長石(巨晶以外)、単斜輝石、斜方輝石であり、わずかにカンラン石がみとめられる。斜長石巨晶の内部はガラス光沢が強く、周縁部において部分的に白濁した箇所が見られる。偏光顕微鏡下では、巨晶は最周縁部に僅かに累帯構造が観察されるが全体としては光学的に均一である。集片双晶、貫入双晶ともに多く見られ、しばしばへき開を伴うが裂開は存在しない。包有物としては融食形をしたカンラン石が見られるが中心部ではなく周縁部に分布し、斜長石巨晶の結晶面に向かう方向に板状に伸長したものが多く見られる。巨晶以外の斜長石斑晶には明瞭な累帯構造が見られた。化学分析の結果、灰長石成分以外には曹長石成分が7%程度、FeAl2Si2O8成分、CaFeSi3O8成分、□Si4O8成分が微量に含まれることが確認された。斜長石巨晶以外の斜長石斑晶の化学組成は、巨晶より曹長石成分に富み化学的累帯構造が著しい。包有物のカンラン石はフォルステライト成分は79%程度で、薩摩硫黄島および開聞岳火山産のそれと比較して若干高い値を示した。また、斜長石巨晶とその他の斜長石斑晶の粒径を比較すると、前者の粒径は後者の粒径分布から明らかに独立しており、マグマから晶出した時期が異なることが示唆される。 以上のことから、口永良部島産斜長石巨晶について明らかになった要点をまとめると以下のようになる。(1)母岩はカルク・アルカリ岩系の含カンラン石複輝石安山岩で、(2)巨晶の化学組成は灰長石成分が約90%で化学的累帯構造はなくほとんど均質である。(3)その他の斜長石斑晶は巨晶より曹長石成分に富む。(4)巨晶の成因については、微量成分の鉱化剤としての役割、温度-交替説などが考えられ、母岩マグマの初生鉱物としてではなく巨晶生成後に島弧におけるマグマ混合を経験したと推測される。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205731685504
  • NII論文ID
    130007039879
  • DOI
    10.14824/kobutsu.2004.0.122.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ