希土類炭酸塩鉱物の結晶化学
-
- 宮脇 律郎
- 科博
書誌事項
- タイトル別名
-
- The crystal chemistry of rare earth carbonate minerals
説明
炭酸塩の結晶構造はケイ酸塩鉱物のように陰イオン原子団が連なる鎖状や層状あるいは三次元枠組の骨格構造を有しておらず、三角形の炭酸イオンは互いに孤立して存在している。このため陽イオンの大きさが結晶構造に顕著に反映されることが多い。希土類元素は主に3価のイオンを形成し、それらはほぼ1Åのイオン半径を持つ。希土類元素はイオン半径により、大まかにY族希土類とCe族希土類に大別するとこができる。希土類元素の中で、特にランタニド元素は、ランタニド収縮により僅かずつ異なるイオン半径を持つ元素群であり、イオン半径の微妙な差による種々の影響を調べるのに適した研究対象である。<br> 天然に産する鉱物は、人工合成物に比べて複雑な相が現れることがある。このため、無機化学や材料工学の研究でも重要な情報源である。希土類元素の炭酸塩鉱物はこれまでに60余種が知られている。その多くは、Ce族希土類を主体成分とするものであり、Y族希土類が卓越する鉱物種は12種を数えるに過ぎない。希土類元素の炭酸塩鉱物は、半数近くについて結晶構造解析の報告があるが、二次鉱物として産することが多く単結晶が得られ難い鉱物群でもある。炭酸塩鉱物における希土類元素の配位数(主に9から10配位)は、ケイ酸塩やリン酸塩に比べて高いことが特徴的である。希土類元素へのCO2-3の結合様式としては、希土類元素の配位多面体と炭酸イオンが、稜を共有する場合と頂点を共有する場合がある。1つの希土類元素の配位多面体に稜共有で結合する炭酸イオンの数は、希土類元素の配位数によらず、3以下である。希土類元素の配位多面体の稜の長さの平均値が3Å程度であるのに対し、炭酸イオンと共有している稜の長さは約2.2Åである。炭酸イオンの一辺の長さは共有結合性により規定されるため、より多くの炭酸イオンとの稜共有は希土類元素の配位多面体の構成を不可能にするためと考えられる。<br> Y族希土類元素とCe族希土類元素の相違は、当然ながら平均RE-O距離と配位数に現れている。Y族希土類元素は8または9配位であるのに対しCe族希土類元素は9または10配位である。同じ9配位について比較するとY-O距離、約2.4ÅはCe-0距離.約2.6Åに比べ短い。Y族希土類とCe族希土類の違いが結晶構造に反映されている例は、セスキ型炭酸塩[RE2(CO3)3]の水和物であるテンゲル石とランタン石に見られ、両者はそれぞれ全く異なる結晶構造を持つ。<br> 希土類元素とカルシウムはその価数は異なるものの、相互に類似したイオン半径を持つため、電荷補償機構があれば同形置換がしばしば見られる。このため、希土類鉱物は、電荷の異なるイオン間での固溶体形成を議論する上で、重要な物質群である。希土類元素とカルシウムの同形置換はRE3++Na+=2Ca2+やRE3++OH-=Ca2++H2Oという電荷補償機構を備えた炭酸塩鉱物、バーバンク石、カーボセルナ石や弘三石で見られる。しかし、テンゲル石やランタン石では見られない。カルシウムを含むテンゲル石の類縁鉱物、木村石とロッカ石では希土類元素とカルシウムが異なる位置を占め、層状のテンゲル石構造にカルシウム層を組み込んだ結晶構造を示している。また、カルシウムを含むバストネス石の類縁鉱物の結晶構造でも、希土類元素とカルシウムは別の席を占有し、それぞれバストネス石構造とファーテル石構造が異なった様式で積層している。
収録刊行物
-
- 日本鉱物学会年会講演要旨集
-
日本鉱物学会年会講演要旨集 2003 (0), 161-161, 2003
一般社団法人 日本鉱物科学会
- Tweet
詳細情報 詳細情報について
-
- CRID
- 1390001205732151168
-
- NII論文ID
- 130007039995
-
- データソース種別
-
- JaLC
- CiNii Articles
-
- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可