大気中の鉱物粒子によるPAHの運搬 _-_黄砂に伴われるPAH_-_

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  • Transportation of PAH by minerals in the atmosphere -PAH accompanyed with Kosa-

抄録

PAH(Polycyclic aromatic hydrocarbon)とは、互いに隣接したベンゼン環を2個以上持つ有機化合物の総称である。これらの融点は室温よりも高く、比較的揮発しやすい性質をもつ。これらの発生は主に人為起源であり、産業活動や交通機器の運行などに伴う化石燃料の不完全燃焼によって大気中に放出される。PAHは発癌性や突然変異誘発性をもつものがあることから、大気中におけるPAHの挙動とその運命については重大な関心がもたれてきた。PAHは主に化石燃料の不完全燃焼により発生するために、これまでPAHと煤の親和性や反応特性について調べられてきた。しかし、大気中に存在する鉱物粒子とPAHとの相互反応に着目した研究は少ない。鉱物粒子は偏西風やジェット気流などに乗って地球規模に長距離運搬されることから、鉱物粒子はPAH長距離運搬の担い手となる可能性も指摘される。 一方、黄砂とはアジア大陸の乾燥・半乾燥地帯から主に春先に季節風に乗って日本に運搬されるダストのことをいい、イライト、石英、カオリナイト、長石などの鉱物を含んでいる。黄砂はアジア大陸都市部の上空を、PAHとの相互作用を経て日本にやってくると推定される。黄砂を捕集し、黄砂に含まれるPAHを同定・定量することにより、鉱物粒子によるPAHの長距離運搬能を考察するための基礎データを得ることができる。このことは、黄砂が日本の環境に与える影響を明らかにする上でも意義が大きい。 そこで本研究では金沢市郊外の里山の頂上付近にローボリュームエアーサンプラーを地表から約20m上部に設置して、エアロゾルのサンプリングを2003年4月21日から2004年4月25日にかけて実施した。エアロゾル捕集用のフィルターの回収と交換はおよそ週1回の割合で行った。本サンプラーはエアロゾルの粒径0.43μm_から_11μmの間を7段階の粒径に分けて捕集することができる。各粒径のエアロゾルの濃度は、サンプリング前後のフィルターの重量を差し引くことにより求めた。エアロゾルの重量濃度を縦軸に、粒径を横軸にしたグラフでは、各季節を通して2μmより細粒側と粗粒側にピークをもつバイモーダルな分布が認められた。2004年の3月_から_4月における黄砂時には、2μmよりも粗粒側の重量濃度に明らかな増大が認められた。SEM観察とEDS分析により、2μmより細粒のエアロゾルは硫酸アンモニウムや煤等から構成され、これよりも粗粒のエアロゾルは主に鉱物粒子から構成されることが示された。PAHの抽出は、2μmよりも細粒のエアロゾルと、それよりも粗粒のエアロゾルに分けて行い、鉱物粒子によるPAHの運搬挙動を明確化できるようにした。黄砂時と非黄砂時におけるエアロゾル中のPAH濃度を比較することにより、鉱物粒子によるPAHの長距離運搬の可能性を検討するとともに、PAHの運搬の担い手として黄砂が日本の環境に与える影響について考察した。 筆者らは、黄砂構成鉱物であるイライト、石英、カオリナイトやフミン酸を吸着体とし、様々なpHに調節した水溶液中でPAHの一種であるフェナントレンの吸着実験も行っている。水溶液中におけるフェナントレンの吸着量はフミンが卓越しており、PAHは鉱物粒子に比べて有機物との親和性の高いことが示された。したがって、黄砂によるPAH運搬は、鉱物粒子に伴われる微量の有機物が大きな担い手になる可能性がある。後者の場合、表面活性が高く有機物との親和性が大きい粘土鉱物が大きな役割をはたすと考えられる。講演では、実測されたデータと吸着実験で得られたデータを比較検討した結果を報告する。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205732665728
  • NII論文ID
    130007040108
  • DOI
    10.14824/kobutsu.2004.0.95.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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