国際分業の新たな段階と日本企業の課題 : エレクトロニクス産業のアウトソーシングと産業空洞化(2011年全国大会統一論題 国際ビジネスとイノベーション)

書誌事項

タイトル別名
  • Managing the New Phase in the International Division of Production and Japan Enterprises : An Outsourcing of the Electronics Industry and Hollowing-out Phenomena
  • 国際分業の新たな段階と日本企業の課題 : エレクトロニクス産業のアウトソーシングと産業空洞化
  • コクサイ ブンギョウ ノ アラタ ナ ダンカイ ト ニホン キギョウ ノ カダイ : エレクトロニクス サンギョウ ノ アウトソーシング ト サンギョウ クウドウカ

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抄録

本稿の目的は、オフショアリングからアウトソーシングへの国際分業の制度移行期にある日本のエレクトロニクス企業の新たな課題を検証することにある。70年代のニクソン・ショックから続く円高にあって日本企業は輸出競争力を削がれる一方、輸出自主規制を受ける中で、日本経済を牽引してきたエレクトロニクス企業や自動車企業などの日本企業は、生産を海外へオフショアリングすることで対応してきた。円高やオフショアリングが進む中でも日本からの輸出は継続的に増大してきた。日本からの継続的な輸出を可能にさせたのは、主な輸出品目が日本企業の海外製造子会社やアジアの新興国企業に対する電子部品や化学部材などの中間財や生産設備となる工作機械であり、ほとんどの場合、円決済を可能にさせていたからである。生産機能の海外へオフショアリングは、産業空洞化もたらすのではなく、中間財や生産設備の輸出、海外子会社の経営管理機能の拡大によってむしろ国内雇用を増大させてきた。しかしながら、2000年代以降、エレクトロニクス産業では、デジタル化によって製品アーキテクチャのモジュラー化が顕著になり、水平分業化が進む一方、製品の機能的価値の平準化が進み、アメリカなどの先進国市場では製品価格において新興国企業の製品と相対的に日本企業の優位性が減衰する傾向となった。新興国企業の台頭にあって日本企業は優位性を維持するために、たとえば液晶テレビでは、絵づくりのコアとなる映像エンジンとなるLSIだけを供給して、液晶テレビの生産を台湾のEMS企業にアウトソーシングすることを始めた。さらに製品機能の差別化が困難になると、製品設計も含めてODM企業にアウトソーシングするようになった。東日本大震災ではサプライチェーンの分断が問題化したが、その後の電力供給不安や欧州危機によるさらなる円高によって、日本企業が強みとしてきた電子部品や化学部材などの専門性の高い中間財企業は、新興国企業への供給に対応するために海外への生産移転の傾向を強めている。アウトソーシングによる日本企業の海外製造子会社の閉鎖、日本の中間財企業の海外への生産移転は、円高の中で生産をオフショアリングしても継続的に日本から輸出を伸ばしてきた体制を瓦解させ、国内雇用の削減を現実に引き起こしている。アメリカのエレクトロニクス企業は、日本企業よりも早い段階においてアウトソーシングを進めてきたが、一方で国内雇用も増大させてきた。日本企業は、アウトソーシングという国際分業の新たな段階にあって従来にない課題を抱えることになった。

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