調停による司法 (I 課題研究 修復的司法 : 理念と現代的意義)

書誌事項

タイトル別名
  • Restorative Justice Through Mediation (Symposium : Restrative Justice : Philosophy and Contemporary Significance)
  • Restorative Justice Through Mediation--What We Are Learning From Research
  • 調査研究から得られたもの
  • What We Are Learning From Research

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説明

世界の多くの部分で刑事司法は21世紀に入り, 多くの未解決の問題に直面している.応報と厳罰の要求が続き, 犯罪者の社会復帰と再犯の防止の重要性の認識が後退し, 刑罰の基本目的に関する明確な理念が失われている.刑罰の目的は, 社会復帰と犯罪者の行動の変容なのだろうか. 一般予防・威嚇が目的なのだろうか.それとも単純な無能化,一定期間社会生活から引き離すことが目的なのだろうか.種々の目的が唱えられるが,裁判所が達成しようとするものについての混乱の拡大に寄与するだけである.  犯罪の被害者は,司法過程に参加する場がない. 司法制度が存在するのは, まさに個別市民が犯罪によって侵害されたからに他ならないのに, これはどうしたことであろうか.犯罪の被害者は現在の司法システムによって, ますます欲求不満に陥り,疎外されている.犯罪は「国家」に対するものと捉えられ, 国家の関心は正義の実現にある. 個々の犯罪被害者は司法のわきに取り残され,殆ど何の影響も与えることができない.犯罪被害者は二度被害に遭っていると感じることが多い.最初は犯罪によって,2 回目は刑事司法制度によって.刑事司法制度が直面するもうひとつの問題は, ますます厳しさを増す刑罰が犯罪行動を変容させるのに失敗しているということである.最後に, 矯正と拘禁にかかる費用の急増が,多くの立法者や政策立案者に,拘禁に寄りかかった現在の応報的司法制度を再 考させているが, 犯罪被害者のニーズは無視されたままである.  犯罪や刑罰をめぐる公の議論は, しばしば, 過去の保守かリベラルかをめぐって,政治主導で行われるが,犯罪と司法に関する思想の,現在の顕著な発展は, 修復的司法への国際的な興味の進展である.修復的司法は, 犯罪と被害の理解と対応についての根本的に異なった枠組みを提供する.修復的司法は犯罪被害者とコミュニティ・メンバーの役割を引き上げること, 被害者に対する直接の責任を犯罪者に自覚させること,被害者の精神的・物質的損害を回復すること, 対話と交渉の機会を提供すること, および,可能な限りの問題解決の重要性を強調する.それこそが, 大きな意味での社会の安全を保障し,全関与者の紛争を解決するのである.  現在の司法制度の多くが犯罪者に焦点を当てたものであるのに対して, 修復的司法は3 つのクライエント・グループをもっている.犯罪被害者,加害者,コミュニティ・メンバーである.修復的司法は,比較的明確な価値観と原則と実務指針をもった国際運動的性格を強めているが, 現在の少年司法や刑事司法に完全に代位する新しいパラダイムとしてではない.多くの旧式な原則に依拠してはいるが,相対的に新しい実務理論として, この運動の現在の発展と影響を検証することは重要である.修復的司法は,犯罪被害者とコミュニティの積極的な関与を得る点において, まったく新しい犯罪への対応策を代表するものである. 修復的司法は, 民主主義社会において犯罪に関係するこれらすべての者の関心を結合する点で, 過去の伝統的なリベラルと保守の立場を超えるものである.  被害者加害者調停(VOM )は, 主として財産犯罪の被害者に, 加害者と会う機会を提供し,安全で組織だった場の設定をして, 犯罪者に, 被害者に対して直接に責任を取らせることを目標として行われる.調停と呼ばれるものの多くが「解決志向」であるのに対して, 被害者加害者調停は「対話志向」である.  修復的司法については多くの調査研究が行われてきた.それらによって示された結果をいくつかの項目について以下に紹介する. クライアントの満足度については, 被害者, 加害者ともに高い.特に少年事件の被害者について高い満足度が見られる.修復的司法が, 真に希望した者についてのみ行われるということとも関連しているであろう. 公正さについて, 被害者, 加害者ともに, 手続も結果も公正であったと感じている者が多い. これは, VOM が, 刑事司法のオプションとして行われることによるところも大きい. 賠償は,二次的な重要性しかもたない(第一次的に重要なのは,直接対面での対話である) が, VOM を経たケースのほうが履行率が高いことを,多くの調査研究が明らかに している. VOM プログラムの多くは少年犯罪者に, ディバージョンの有効な手段としての可能性をもつが,一方でネット・ワイドニングになるという見かたもある. これに関する研究は多くはなく, 結論もさまざまである. 再犯率は, 成果を測定する最も一般的な方法なので,多くの研究例がある.そして, うまく計画された調査研究例のすべてにおいて, 伝統的な方法に比べて, 再犯率を下げていると報告されている. 1 件あたりの費用は, VOM によって引き下げることができる. 性犯罪や暴力犯罪はVOM の対象からはずされる例も多いが, 近年では次第に重い暴力的犯罪にもVOM が行われるようになりつつある.  今日VOM は17 力国1400 以上のプログラムが行われており, 最も期待される司法改革運動になっている.

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