プライマリー・グローバリゼーション : もうひとつのグローバリゼーションに関する人類学的試論(<特集>「グローバリゼーション」を越えて)

  • 床呂 郁哉
    東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所

書誌事項

タイトル別名
  • Primary Globalization : Anthropological Essay on Other Globalizations(<Special Theme>Beyond "Globalization")
  • プライマリー・グローバリゼーション--もうひとつのグローバリゼーションに関する人類学的試論
  • プライマリー グローバリゼーション モウ ヒトツ ノ グローバリゼーション ニ カンスル ジンルイガクテキ シロン

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抄録

グローバリゼーションについて論じることには現在、特有の困難がある。その一因はグローバリゼーションをめぐる議論や論争、対立等が必ずしも自明ではない暗黙の前提をもとに議論されていることにある。本稿は、その暗黙の前提を指摘し、従来のグローバリゼーションをめぐる議論の多くは、本稿で「大文字のグローバリゼーション」と呼ぶ概念に依拠しており、それはグローバリゼーションをめぐる議論の可能性のありうる可能性のうちの一部にすぎないことを指摘する。ここで言う「大文字のグローバリゼーション」とは、主として時間軸上では近代以降の、そして空間軸においては欧米などを中心とした「中心-周辺」モデルを暗黙の前提とした概念である。この従来のグローバリゼーション概念に代わる枠組みとして本稿では「プライマリー・グローバリゼーション」という概念を新たに提唱する。この「プライマリー・グローバリゼーション」とは、近年の歴史研究等で指摘される前近代の非西欧地域において既に存在していた広域に跨る人、モノ、文化等の移動やネットワーク、フロー状況を、現代的文脈においても持続している現象として再定義したものである。本稿はこうしてグローバリゼーションのありうる複数性や多元性に注意を喚起すると同時に、またそうした複数の異なるグローバリゼーションが、相互にどのような関係を切り結んでいるのかを、筆者のフィールドであるミンダナオのムスリム分離主義運動を含むイスラームの動向などを題材に検証することを通じて、グローバリゼーションに関する人類学的議論の可能性を拡大することを試みるものである。

収録刊行物

  • 文化人類学

    文化人類学 75 (1), 120-137, 2010

    日本文化人類学会

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