209 機械力学からみた細胞研究

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  • 209 On a Cell Research from the Viewpoint of Dynamics

抄録

細胞は,近年の遺伝子工学,生命工学,再生医療,バイオメカニクス等の名称に代表されるように一部の研究者の興味を集め,また総合科学技術会議が進める重点領域研究として多くの人材と研究費がつぎ込まれている対象である.現在も生物学,生化学的観点から膨大な研究が世界中で進められており,研究速度は日々加速しているようにみえる.細胞自体は当然ながら力学的な環境の中で増殖・死滅を繰り返している生物単位であり,膨大な量の単位の集合体が生体を構成し活動している.細胞は広い意味で力学が包含できる対象でもある.さらに最近は「生物に学べ」をスローガンに,機械工学関係の多くの分野で生物の自己修復,環境適応に関するメカニズムを目指しつつある.上記のような力学的観点から従来の細胞研究を眺めると,細胞に関して多くの未解明な事柄があり,力学的,特に機械力学的観点に立った研究はほとんど行われていないことに気がつく.細胞はセンサー,アクチュエータ,コントローラに相当する機能を備えたほぼ独立した生命体であり,粘弾性力学的特性を示し,高粘度流体が細胞内部に満たされており自在に変形し,さらに細胞内にエネルギーを蓄えて分配するシステムを有しているなど,機械工学でいういわゆる4力学の宝庫でもある.さらに近年研究が開始されているマイクロマシンやナノマシンの原型そのものであるとみなすこともできると考えている. Fig. A1は細胞内部に存在する骨格を蛍光染色を行って可視化した写真である.緑色に染色された繊維は細胞骨格と呼ばれ,細胞の力学的環境に応じて動的に変化し,細胞の形態を保つために不可欠なものである.しかし,この細胞骨格の動的特性は計測された記録がない. Fig. A2は細胞全体の引っ張り試験を行って応力ひずみ線図を描いた結果である.個体差があるため,また実験の精度によるばらつきが大きいが,等価な弾性係数は算出可能である.機械力学的な意味では,細胞にとって環境適応ができるならば,センサーは何か,アクチュエータは何か,さらにコントローラは何かという疑問を突き詰める必要がある.これが解ければ,マイクロマシン,ナノマシンの実現へ階段を一歩進めることにつながる.センサーは恐らく様々な種類のタンパク質であろうことは過去の多くの研究から推察できる.しかし,未だにセンサーの特性は不明である.ある特定の振動数をもつ機械的振動により細胞分裂速度が変化するという実験結果は得られているが,センサーの特性が明らかでないために,細胞に与える影響の原因すら不明である.またアクチュエータの特性も明らかではない.さらに制御系がどこに存在するかさえ現時点でわかっていない.本稿ではこのような観点から細胞を捉える方法論について提案し,機械力学関係者のこの分野への興味と参入を促したい.

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