脂肪酸結合タンパク質FABP3の基質認識機構と機能

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  • Mechanism and Function of Substrate Recognition by Fatty Acid Binding Protein 3

抄録

<p>序 論</p><p>細胞膜の疎水部における分子間相互作用は、細胞内外物質移動の障壁だけでなく、膜タンパク質の構造形成・機能発現、細胞膜構成分子の集合・分配によるドメイン形成など、ダイナミックな生理機能発現に関与する。主にフレキシブルな脂質アルキル鎖で形成される細胞膜疎水部では、水素結合などの指向性を有する相互作用の寄与が少なく、構造形成に対する分子論的アプローチが困難であり、分子間相互作用に未解明な部分が多い。</p><p>細胞膜疎水部における分子間相互作用の支配的要因の一つに、疎水性領域のマッチングが挙げられる1。この長さに基づいた分子認識は、細胞膜や膜タンパク質に作用する天然有機化合物の生理機能発現にも重要であると考えられる2。しかし、分子間相互作用に対する長さや面積の影響は分子論的記述が難しく、構造からの理解・予測が困難である。これらの相互作用に基づく分子認識の理論と概念は、細胞膜疎水領域を標的とした天然物の作用機序の解明と、それを基盤とした創薬に資する重要な研究課題である。</p><p>われわれは、細胞膜疎水部における分子間相互作用の新概念を、分子構造に基づいて確立することを目指し、脂質‐タンパク質間相互作用の研究を展開している。 本研究では、最も単純な脂質である脂肪酸を例として、ヒト心筋脂肪酸結合タンパク質(fatty acid binding protein 3: FABP3)による脂肪酸アルキル鎖長の認識機構を取りあげた。FABP3は、脂肪酸の細胞内輸送に関与する分子量15 kDaの可溶性タンパク質であり、一分子の脂肪酸を結合する3。今回、熱力学的手法と構造生物学的手法を用い、FABP3の脂肪酸構造認識が、基質の配座固定と親水表面への水分子の結合が関与した、興味深い分子機構に基づくことを明らかにしたので、その詳細を報告する。</p><p> </p><p>1. リポソームを利用したFABP3-脂肪酸親和性の網羅解析</p><p>FABP3は脂肪酸に対して独特の選択的親和性を示すことが様々な実験から示唆されていたが4、同一条件における網羅的な比較は過去に報告例がなかった。この原因として、脂肪酸の水溶性が鎖長により大きく変化するため、同じ条件での結合親和性評価が難しいことが挙げられる。C14以上の長鎖脂肪酸は水に難溶であり、特にC18以上の脂肪酸はほとんど不溶となる。</p><p>細胞質における遊離脂肪酸濃度は10 nM以下であり、多くが細胞膜や油滴に結合して存在する5。そこでわれわれは、人工リン脂質二重膜リポソームに脂肪酸を結合することで沈殿を防ぎ、これをFABP3に滴下した時の結合熱を等温滴定熱量測定(ITC)により測定する、精密相互作用解析法を考案した。本方法により、水に不溶である超長鎖脂肪酸(>C22)を含めた全ての脂肪酸に対して、同一条件でFABP3への親和性を評価することが初めて可能となった。</p><p> </p><p>(View PDFfor the rest of the abstract.)</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001206079498112
  • NII論文ID
    130006470578
  • DOI
    10.24496/tennenyuki.55.0_oral12
  • ISSN
    24331856
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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