狩猟採集民社会における食物分配の類型について : 「移譲」、「交換」、「再・分配」

書誌事項

タイトル別名
  • On a Typology of Food Sharing Practices in Hunter-Gatherer Societies : Transfer, Exchange and Re-distribution
  • シュリョウ サイシュウミン シャカイ ニ オケル ショクモツ ブンパイ ノ ルイケイ ニ ツイテ イジョウ コウカン サイ ブンパイ

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説明

本論文では、狩猟採集民社会における食物分配の形態に関する諸研究を学史的に振り返り、検討を加えることにより、「互酬性」概念に基づく食物分配研究の問題点を明らかにする。さらに、食物分配行動を分類、記述、比較するための、新たな類型を提案する。最後に、イヌイットの食物分配の事例をこの類型を用いて分析することによって、新類型の有効性を吟味する。これまでの食物分配をめぐる研究では、多様な行動形態が一括して食物分配(行動)として取り扱われる傾向が認められる。筆者はこれに対し、既存の諸研究の整理・検討を通して、食物分配が開始されるやり方(ルールによる、自主的、要求による)と食物の流れ(移譲、交換、再・分配)という2つの軸に基づけば、食物分配の形態には9種のバリエーションが存在することを提示した。その9類型とは、「ルールによる移譲」、「自主的な移譲」、「要求による移譲」、「ルールによる交換」、「自主的な交換」、「要求による交換」、「ルールによる再・分配」、「自主的な再・分配」、「要求による再・分配」である。この類型をカナダのイヌイット社会に適用したところ、イヌイットの食物分配は「交換」ではなく、「移譲」や「再・分配」が多く認められること、「要求による分配」があまり存在していない点が明らかになった。食物分配の内容や社会的な意味は社会ごとに異なるが、この9類型を用いれば、狩猟採集民社会に存在してきたほぼすべての食物分配行動の形態を分類、記述、比較できるのではないかと考えられる。さらにこの分配の新類型は、モノやサービス、現金の分配の研究や現代社会における食物分配の研究にも適用することが可能であると主張する。

収録刊行物

  • 民族學研究

    民族學研究 68 (2), 145-164, 2003

    日本文化人類学会

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