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- 鈴木 啓之
- 東京大学大学院総合文化研究科博士課程:日本学術振興会
書誌事項
- タイトル別名
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- Understanding the Palestinian Intifada of 1987: Historical Development of the Political Activities in the Occupied Territories
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説明
本稿は、パレスチナ被占領地(ヨルダン川西岸地区およびガザ地区)における1987年の大衆蜂起インティファーダに着目し、この運動が大規模かつ長期的なものたり得た背景を検討する試みである。この関心のもと、本稿では先行研究を精査した上で、以下の三点(動員基盤の形成、直接的な抗議活動への変質、指導部の役割)に着目して検討を加えた。第一に、インティファーダで発揮された動員力の背景として、1978年のキャンプ・デーヴィッド合意署名以降に盛んとなった党派動員の影響を、イスラーム主義組織をも包括した形で検討した。同合意の署名を受けて被占領地内部では民族指導委員会(NGC)が結成され、パレスチナ解放機構(PLO)支持派の市長や組合代表などによる超党派の組織活動が発展の兆しを見せた。時を同じくしてPLOの諸組織は、共産主義組織が大きな影響力を維持していた組織活動に相次いで参加し、それぞれ党派系の労働組合や女性団体、学生団体を結成した。注目すべきは学生団体においてはイスラーム主義勢力の台頭が著しく、これらが将来的にイスラーム抵抗運動(ハマース)の組織的基盤の一つとなった点である。以上から、被占領地においてはPLOを支持した形での大衆動員の経験が十分にあり、並行してイスラーム主義勢力も活発化していたため、動員基盤が十分に形成されていたといえる。第二に、1980年代前半から頻発した短期間の大衆蜂起をインティファーダとの関連から再考した。1982年のレバノン侵攻と並行して被占領地内部で強化された占領当局による取り締まりは、予防的措置を伴う鉄拳政策へと発展した。PLO支持派市長の大量解任やNGCの非合法化、予防的な道路封鎖などが実施された結果、短期間の大衆蜂起が1982年、1985年、1986年と連続した。これら蜂起は偶発的な出来事から発展した点で1987年のインティファーダと類似するものの、指導部不在であった点で異なる特徴を持つ。当時PLOは危機的な党派対立を抱え、これが統一的な指導部の形成を妨げた一要因であったと推測される。しかし、1987年4月に党派対立が解消されることで、この年の末に発生した大衆蜂起はそれ以前のものと異なる発展を遂げたと考えることができる。第三に、インティファーダにおいて指導部が実際にどのような機能を果たしたかを分析した。この蜂起では新たに設立されたハマースとならびPLO系諸党派の連合体である統一指導部(UNL)が指導部として機能した。司令と実際の運動との関連性や、各地域単位で結成された草の根組織である人民委員会が発した声明の分析からは、特にUNLの司令が蜂起の初期において運動の維持に重要な役割を担っていたことが示された。UNLによる調整は運動に持続性と方向性を与え、パレスチナ独立国家の建設を掲げるとともにPLOを唯一の政治窓口として指定することに成功したのである。しかし、PLOが1988年11月の独立宣言に際し、その領域をヨルダン川西岸地区とガザ地区のみに定めたことで、運動の指導に困難が生じる。特に全土解放を掲げたハマースやパレスチナ解放人民戦線(PFLP)との対立は、動員の混乱として現れ、インティファーダそのものが変質する端緒となったことがうかがわれた。以上を約言すれば、先行研究でたびたび指摘される動員基盤の形成に加え、被占領地の政治活動が直接的な抗議活動へと転換した背景と具体的な運動の発展、そして指導部の形成によって1987年インティファーダの特性を明らかにすることが可能である。つまり、インティファーダは、被占領地における長年の組織活動の歴史(動員の基盤の確立)、1980年代前半の政治的な先鋭化(直接的な抗議活動の発展)、蜂起が長期にわたって維持された背景(指導部による調整)の3点から、その規模の大きさと持続性を説明することができよう。
収録刊行物
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- 日本中東学会年報
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日本中東学会年報 29 (2), 171-197, 2013
日本中東学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001206219641344
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- NII論文ID
- 110009805431
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- NII書誌ID
- AN10183797
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- ISSN
- 24331872
- 09137858
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- NDL書誌ID
- 025256532
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- 本文言語コード
- en
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- データソース種別
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- JaLC
- NDLサーチ
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可