セレニウム中毒に関する研究

書誌事項

タイトル別名
  • Studies on Selenium Poisoning
  • Some Physical Reactions Caused by Selenium Absorption
  • セレニウム攝取に基づく生体の反応

抄録

セレニウムの中毒はセレン整流器工場など諸種工業方面において,またわが国内主要食糧の需給状況の関係などから近年急激に注目されてきた。筆者は実験的に家兎(およびモルモット・マウス)に各種の方法によつてセレニウムを投与して,このとき比較的簡単に検査・測定しえて,かつ早期に変調を知りうる生体反応を見出すとともにセレニウムに起因する障害の防止について論及せんと試み,蛋白代謝・コレステリン代謝に関係する二,三の血液および尿所見ならびに血球の諸所見について若干の検索をおこない,さらにセレニウム投与とともにアミノ酸製剤・肝機能保護剤を投与してその防禦効果につき若干論述した。その結果を要約すれば次のごとくである。<br>(1) 蛋白代謝の変化:尿中窒素排泄は亜セレン酸液腹腔内注射(セレニウム量0.5mg/kg体重)・金属セレン熔融蒸気吸入(気中濃度0.1mg/l・0.05mg/l・0.02mg/l)のいずれにおいてもセレニウム投与により著増が認められた。血清残余窒素量は注射・吸入のいずれでも増加傾向が認められ,とくに吸入群ではセレン気中濃度の高い場合ほど増加の程度が著明であつた。金属セレン添加軟膏皮膚塗擦では初期には変化に乏しいが長期間継続すると漸次増加傾向がみられ,これはセレニウムの慢性的中毒と考えられる。血清総蛋白量は注射群・吸入群ではとくにいうほどの傾向は認められないが,長期間継続せる軟膏塗擦群では漸減を認めた。血清アルブミン・グロブリン比・血清蛋白分画率には著変を示さなかつた。尿中窒素排泄および血清残余窒素量の増加傾向が体重減少と同時に認められることから体内での蛋白崩壊が亢進するものと推察される。<br>(2) 注射群・吸入群・塗擦群のいずれにおいてもセレニウム投与によつて血清総コレステリン・コレステリンエステルは比較的早期から減少傾向を認め,投与中止により急速に実験前値に復するのがみられ,これはセレニウムの毒作用とコレステリンとの間の深い関連性に関する少なからざる示唆であると考えられる。<br>(3) セレニウム投与によつて赤血球数・白血球数の軽度の増加を認め,白血球百分率では相対的淋巴球増多を認め,いずれも文献と一致した所見を得た。ヘマトクリット値は上昇傾向を示し,これは血液濃縮のためであろうと考えられる。赤血球滲透抵抗は注射群・塗擦群では著しい変化を認めなかつたが蒸気吸入群では軽度の減弱傾向が認められ,投与セレニウムの量いかんによつてはさらに変化を確認できるのではないかと思われる。<br>(4) 飢餓の状態でセレニウムを投与すると,蛋白代謝および血球所見での変化がさらに強められまたコレステリン代謝も若干影響を受けることが明らかとなつた。したがつて常食時におけるセレニウム投与による代謝異常・血球所見の変化は明らかにセレニウムによつて惹起されたものすなわちセレニウム中毒時の生体反応と考えることができる。<br>(5) モルモットに金属セレン添加軟膏を塗擦すると家兎の場合と同様に蛋白代謝およびコレステリン代謝の異常を示した。<br>(6) 家兎に金属セレン熔融蒸気(気中濃度0.02mg/l)を吸入せしあるとともに,アミノ酸製剤・肝機能保護剤を投与して観察した結果,蛋白代謝およびコレステリン代謝にある程度の改善が認められた。<br>(7) マウスに金属セレン熔融蒸気(気中濃度0.02mg/l)を吸入せしめると同時にアミノ酸製剤・肝機能保護剤を投与して,その生存率および体重推移について,セレニウム吸入をおこない薬剤を投与しない対照群・吸入も薬剤投与もおこなわない無処置群と比較観察した結果,ポリタミン投与群は生存率・体重推移のいずれにおいても無処置群を除いた他のいずれより最良であり,グロンサン投与群がこれに次ぎ,メチオニン投与群は最下位であつた。<br>以上よりセレニウム摂取が体内の蛋白代謝・コレステリン代謝に著しい障害をもたらし,また軽度ながら血球の二,三所見にも異常をきたすことが認められ,これらはセレニウム摂取による障害時に比較的早期にかつ容易に見出しうる諸反応であると考えられる。また,この場合にアミノ酸製剤・肝機能保護剤の併用投与はかなりのセレニウム毒作用防禦効果があることが判明した。<br>大川81)も述べているごとくセレニウムを取扱う職種ではセレニウムへの直接の接触を避けしめることは勿論のこと熔融金属セレンの蒸気に曝露しこれを呼吸に際して吸入せしることのないよう施設を整備することが絶対的に必要であり,各種の食糧中に含まれるであろうセレニウムを充分に分析検討してその除去に努め,摂食を避けることが必要である。<br>さらに蛋白質がセレニウムの毒作用の防禦に有効なることから,セレニウム摂取の危険あるときにはこれに充分見合うだけの量の蛋白質を摂ることが必要

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