分子動力学計算による超好熱菌由来タンパク質の安定性の解析

書誌事項

タイトル別名
  • Dynamic and Structural Analysis of Hyperthermophilic Cold Shock Protein Stability
  • ブンシ ドウリキガク ケイサン ニ ヨル チョウコウネツキン ユライ タンパクシツ ノ アンテイセイ ノ カイセキ

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説明

生体高分子であるタンパク質の安定化要因に関して,数十年以上さまざまな研究がなされてきた.本報では,分子動力学計算と,アミノ酸配列・立体構造の解析結果を組合せて,あるタンパク質の安定化要因を探索した.対象とした超好熱菌 Thermotoga maritima 由来コールドショックタンパク質(CSP)は,菌の至適生育温度 353 K では,わずかな構造安定性(ギブス自由エネルギー変化 ΔG(Topt)=0.3 kcal/mol)しか持たない.一方,常温菌由来の相同な CSP は,菌の至適成育温度 310 K で,超好熱菌由来 CSP の 5 倍以上の安定性を持つ(大腸菌由来 CSP で ΔG(Topt)=2.2 kcal/mol,枯草菌由来 CSP で 1.5 kcal/mol).同じ温度(室温)で比べてみると,超好熱菌由来 CSP は,常温菌由来 CSP よりも高い安定性を示す.これらの報告例から,超好熱菌由来 CSP は,熱力学的ではなく速度論的バリアによって,高温でもアンフォールドしないと推測される.より詳細な熱安定化のメカニズムを探るために,分子動力学計算で超好熱菌 CSP の完全なアンフォールディングを観測し,筆者らの推測を検証した.超好熱菌 CSP 以外の相同 CSP は,C 末部分からアンフォールディングが始まり N 末端部分の構造は最後まで残るが,超好熱菌 CSP は,両末端部分ともアンフォールドするまでに計算時間を要し,ほぼ同時に崩れる.その C 末端部分では,R2, E47, E49, H61, K63 および E66 の荷電残基の相互作用により構造が強固になり,N 末端部分との相互作用も強化されている.これらの相互作用は,超好熱菌 CSP に固有で,常温菌 CSP には見られず,アンフォールディングのバリアとして作用している.この相互作用を壊すアミノ酸置換を導入した変異体モデルと,他の CSP にこの相互作用を導入した変異体モデルのアンフォールディング計算結果からも,この相互作用が超好熱菌 CSP 特有のアンフォールディング機構を決定し,分子の安定化に寄与していることが示された.<br>

収録刊行物

  • 高分子論文集

    高分子論文集 67 (3), 151-163, 2010

    公益社団法人 高分子学会

参考文献 (109)*注記

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