東北農業の将来展望と農村経済研究の役割

書誌事項

タイトル別名
  • Roles of Rural Society-Economic Studies to clear the future of Tohoku Region's Agriculture

抄録

<p>東北地域は,第二次大戦後,日本資本主義の強蓄積に伴い,東京巨帯都市圏等への労働力と農産物等一次産品の供給源として位置づけられ,農外収入だけで生計を賄えずに農業収入もあてにせざるを得ない農家層を多くした.それでも1980年代までは農業の「進展」が見られたが,輸入依存を強める国際化農政の下,2000年代に入ると地域労働市場の一層の逼迫と「水田転作」の強化が顕著になり,後退的構造変動を促す一部条件が出現した.結果,“水田作周縁地帯”からいち早く小規模層の脱農化傾向と『転作受託』等から数十haから百ha規模への急速な拡大事例の出現など大きな変化があらわれている.</p><p>2000年代からの米政策は,「ミニマム・アクセス米は心理的影響のみ」という仮構性の上に米の生産調整に選択制を導入して米価暴落を招いた.その後の民主党政権による戸別所得補償政策は大規模層に収益性改善効果を持ったが,公正性や財源などに課題を残した.2012年からの第二次安倍政権は,ポストTPPを想定して強権的手法で人・農地・組織に係る戦後民主化諸措置を撤廃して農業・農村を農外企業の活動の場に変えようとして矛盾を深める一方,食糧法制定・改定の規制緩和によるスーパー等小売の巨大化,川下の影響力拡大は凄まじい.</p><p>こうした中で,東北農業の将来展望をいかに切り拓いていくのか.</p><p>1 構造改革問題では,とかく先端的経営の規模拡大の大きさに目を奪われがちであるが,経営内部的な合理性とともに,大きな状況変化があるとはいえ,高定住社会,地域資源管理,農地分散問題との関連が依然として重要であり,それらを踏まえてその適切性や妥当性が論じられるべきである.</p><p>2 集落営農は農業構造の現局面の経営面と社会面との解決形態の一つとして注目され,近年,資源管理に関わる基礎的領域とその上で行われる農業活動やグループ活動に長足の深化が認められているが,他方では集落営農組織に一切を任せた集落の人たちが農業に無関心になる傾向があらわになることもあり,将来に向けてはこうした矛盾をいかに克服していけるかを問うべきである.</p><p>3 東北地域の就業機会の狭隘化が進む中で,それを超える女性,高齢者を含む農家世帯のビジネス(Farm Family Business)戦略の立て直しがきわめて重要である.地域の生産者たちは地域内外の消費生活者たちと「地産地消」,「身土不二」,「スロー・フード」,CSA(Community Supported Agriculture)など独自な価値や文化を持つ「商品」を作り出し,グローバル市場の隙間に「こだわりのローカル市場」を拓きつつある.そのrural sustainability の持続的な再生には,創り出す側と享受する側の双方をつなぐ情報通信や交通等手段のあり方,成果を享受する都市生活者等の力量の持続的な再生産のあり方,生産者の職人技,技術やデザインにおける創造性の発揮,“営み”や働きの創造的な再生の仕方等,簡便・的確な情報整理・創造が必要である.このことは,都市生活のグローバル化に向けた暴走の制御にもつながる可能性がある.</p><p>4 こうした取組にもかかわらず,高齢化や採算面などから農業からリタイアする人の発生は避けられないから,土地利用型農業革新につながる大規模借地営農の胎動を積極的に掘り起こす必要がある.その場合,1で述べた論点に加え,“中型稲作技術”を超す『労働手段体系』,『作付体系』や『地力再生産・雑草防除体系』の検討,ならびにその現象が水田作周縁地帯から現れていることと相俟って畜産経営との類型間補完の成立などの意義を積極的に論じていくべきである.</p>

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