アルマ望遠鏡の初期成果――電波干渉計で見えてきた新しい宇宙

書誌事項

タイトル別名
  • First Results of ALMA――Revolutionary Images of the Universe
  • 交流 アルマ望遠鏡の初期成果 : 電波干渉計で見えてきた新しい宇宙
  • コウリュウ アルマ ボウエンキョウ ノ ショキ セイカ : デンパ カンショウケイ デ ミエテ キタ アタラシイ ウチュウ

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抄録

<p>南米チリのアタカマ高地に建設されたALMA(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array)は,波長が約3 mmから0.3 mmまでの電波(ミリ波・サブミリ波)を捉える世界最大の電波干渉計である.この望遠鏡は,これまでにない空間解像度・イメージング能力・感度を併せ持ち,宇宙における様々な現象について,革新的なデータを提供すると期待されている.ALMAは日本を含む東アジア・北米・欧州の三地域の協力によって建設・運用がされており,天文の分野としては初の大規模国際協力プロジェクトでもある.</p><p>ALMAは,66台のアンテナから成る電波干渉計である.その建設途中であった2011年から「初期観測運用」と呼ばれるサイエンス観測が開始された.当初は16台のアンテナによる観測から始まったが,それでもなお,既存の望遠鏡を遥かに凌ぐ感度を有し,宇宙物理学の様々な分野において,価値あるデータを多数得ることに成功した.2014年6月には全てのアンテナが揃い,本格運用の段階に入りつつある.</p><p>ALMAによって得られた成果は多岐にわたるが,ここでは,「星形成」をキーワードにその一部を紹介する.</p><p>まず,ALMAにより,赤外線銀河背景放射をほぼ100%点源に分解することに初めて成功した.赤外線銀河背景放射は,過去の宇宙における天体形成史のうち,ダストに隠された部分の積分であると考えられており,その担い手を特定していく上で大きな前進をもたらした.また,宇宙再電離期の銀河において,多量のダストや電離した酸素の検出に成功し,宇宙最初期の重元素生成シナリオに対して新たな挑戦を突き付けている.</p><p>また,ALMAは,現在の宇宙における星形成過程の研究にも新しい展開をもたらしている.</p><p>第一に,これまで謎に包まれた部分の多かった,太陽の数10倍程度の質量を持つ「大質量星」について,その形成現場を直接観測して温度・速度などの基本的な物理量の情報を得ることが可能になった.その結果,星間空間における濃いガス塊の衝突が,大質量星の形成メカニズムとして重要である可能性が示唆される.</p><p>第二に,小質量星の形成においても,まさに星が生まれつつあるガス雲に,複雑な構造が存在することを明らかにした.この構造の解析から,例えば,激しい力学過程の中で多重星の系が生まれるというような星形成の描像を,観測に基づいて直接描いていくことができるようになった.</p><p>さらに,ALMAは,若い星の周囲の原始惑星系円盤を,これまでにない空間解像度で観測することに成功している.その結果,細いリング状の構造や三日月状の構造など,これまでに想定をしていなかったような豊かな構造が円盤に存在していることが分かってきた.このような構造が,惑星形成や円盤の物理とどのように関係しているのか,活発な議論がなされている.</p><p>以上のように,ALMAはこれまでの観測で,宇宙物理学の様々な分野において革新的なデータをもたらし,これまでの常識を覆すに足る観測を多く出してきている.今後も,星形成に関係した分野のみならず,我々の考える宇宙の姿が大きく変わっていくかもしれない.その進展が大いに期待されるところである.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 74 (4), 201-209, 2019-04-05

    一般社団法人 日本物理学会

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