「ふるさと学習(ふるさと教育)」は「地理教育」なのか?

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • Local Area Learning (Education on the Homeland) in Schools and Geographic Education

抄録

<p>Ⅰ.目的と背景</p><p>本発表の目的は、学校における「ふるさと学習(ふるさと教育)」と「地理教育」との関係性をカリキュラムマネジメント等の視点から整理することである。</p><p>本セッション「地理教育」の案内には、「小学校・中学校・高等学校および大学教員養成課程において地理教育は大きな課題を抱えている.これらの課題と対応について広く議論をしたい.とりわけ,次期学習指導要領の効果的な実践にかかわる展望と課題についての発表を歓迎したい.」とある。発表者はこれに呼応して本件の発表を申し込んでいるが、「地理教育」と銘打たれた場で議論を主導するのはたいてい大学や高等学校に属する研究者であり、特に小学校に関しては教員の参加が教員数のわりに僅少という状況にある。また、小学校・中学校・高等学校の教員による実践報告が学びの「系統性」を意識して同じ場でおこなわれることもあるが、たいていはそれぞれの教員の置かれた状況や実践の位置づけに個別性が大きく、実践事例に学ぶところに終始し、所期の目的の達成にまで至らない。</p><p>その一因として、日本の小学校における「地理教育」が何を指すのかが不明確であることが挙げられる。中学校の社会科地理的分野、高等学校の地理歴史科の「地理」を冠する科目が「地理教育」の対象であることは自明であるが、小学校においては社会科等に関して「地理」という言葉はほとんど使われない。一方で、地域学習は、義務教育段階においては社会科における「身近な地域の学習」、総合的な学習の時間において地域の社会・文化・防災・生態系等を取り上げた学習、理科における身の回りの生きものを素材にした学習、ほかにも家庭科や国語、音楽などさまざまな科目でおこなわれている。これらには、個々の教員の努力と熱意により工夫されているケースもあれば、教育委員会や学校が体系性をもたせている例もある。ただ、「地域学習」という言葉も小学校教員にとって何を指すのかわからない場合がある。「ふるさと学習」「ふるさと教育」という言葉のほうが多用されるケースも多く、そのほうが理解してもらいやすい。</p><p>とはいえ、「ふるさと学習」「ふるさと教育」といった名称は、社会科の枠を超えた形で用いられることが多い。また、中学校や高等学校でも使用されることがある。さらに、小中一貫教育等が推進される中において、体系的な「ふるさと学習」等の必要性が議論されることも多い。このことは積極的に考えると、学校種や教科の枠を超えたカリキュラムマネジメントの視点から「地理教育」を捉えなおし、「地理」の役割を再確認することにつながる。そこで本発表では、「ふるさと学習(ふるさと教育)」のカリキュラムについて具体的な事例をとりあげ、前掲の目標の達成に向けてアプローチしたい。</p><p>Ⅱ.方法</p><p>体系的な「ふるさと学習」のカリキュラムの策定を志向している京都府南丹市立美山小学校・美山中学校の「美山学」の事例を中心に整理・考察する。本事例を選択したのは、発表者が2018年10月に中学生に講演する機会を得たこと、同月の第67回全国へき地教育研究大会京都大会で中学校が分散会発表校、小学校が分科会会場となり、資料が整っていること、そしてその後に調査の協力を得ることができたためである。</p><p>「美山学」の体系は、学年、教科、特別活動等の枠を超えてESDカレンダー(東京都の小学校教員であった手島利夫氏が開発したもので、総合的な学習の時間を核として教科単元や各学年の学習内容をつなげ、それを視覚化する手法)の形に整理し、扱っている地域資源やテーマ、子どもにつけようとしている資質・能力等の観点から分析した。また、小学校・中学校・高等学校の新学習指導要領と照合し、「地理」との関係の整理を試みた。さらに、「美山学」の実施にあたっての条件整備の工夫についても明らかにした。</p><p>付記</p><p>本研究の一部には、公益財団法人国土地理協会の2018年度学術研究助成、および奈良教育大学の学長裁量経費を用いました。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001277352375040
  • NII論文ID
    130007711004
  • DOI
    10.14866/ajg.2019a.0_174
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ