昆虫学の最近の進歩と今後の展開 保全生物学・自然保護

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  • Recent developments and future perspectives in entomology: Conservation biology and nature conservation
  • コンチュウガク ノ サイキン ノ シンポ ト コンゴ ノ テンカイ ホゼン セイブツガク ・ シゼン ホゴ

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抄録

<p>これまで日本昆虫学会が保全生物学・自然保護に果たしてきた成果・役割について概説した.その内容は以下の通りである:1)英文誌「Entomological Science」には,2016年までに保全生物学やこれに関連する論文・短報が約60本掲載されており,しかも年々増加傾向にあった.特に学会賞が授与されたInoue(2003)やKitahara and Fujii(2005)による研究では,保全生物学分野の重要性が高く評価されている.和文誌「昆蟲(ニューシリーズ)」でも保全生物学関連の論文・報文等が40本程度掲載されている他,年次大会でも毎年多くの発表が行われるなど,本学会は保全生物学・自然保護に関する研究発信の場を長く提供してきた.2)1966年の自然保護委員会の創設以来,本学会は自然保護に深く関わってきた.年次大会での本委員会主催の自然保護シンポジウム・小集会の開催の他,環境省レッドリストやレッドデータブックに寄与し,侵略的外来種への対応でも強く発言してきた.優先保全地域を提示した「昆虫類の多様性保護のための重要地域」シリーズの発行は本委員会最大の功績として挙げられる.また,様々な環境問題に対して国・地方自治体等に要望書を提出してきたことも注目すべきである.3)与那国島でのヨナグニマルバネクワガタや希少な水生昆虫の保全,ゴイシツバメシジミやツシマウラボシシジミのような希少チョウ類の保全など,本学会や他学会からの要望書により実際に進められた絶滅危惧昆虫の実践的な保全活動とその後の成果等も紹介した.</p><p>その一方で,日本昆虫学会が保全生物学・自然保護に資するべき今後の役割や展望として,研究を主体とした科学的データの提供だけでなく,希少昆虫の回復,保全活動の推進,環境教育の普及などの社会貢献にも供することが必要であることを述べた.具体的には下記の通り:1)希少昆虫の絶滅を招く様々な環境問題に対して,これまで以上に速やかに対処し,科学的知見から得られたデータに基づいて該当機関に要望書を提出したり,学会ホームページや学会機関誌に要望書の内容を公開発信することが重要となる.2)生物多様性条約等の世界情勢も鑑みて,国内希少野生動植物種の昆虫の指定数および指定割合も増える可能性が高く,学会等の意見・対策が一層要求される.3)環境省「種の保存法」の一部改定で「特定第二種国内希少野生動植物種」制度の導入が決定されたが,この制度を機能させていくためには,本学会発行の「昆虫類の多様性保護のための重要地域」シリーズを含む科学的な基礎情報の提供や実践的な保全活動への寄与が必須となる.4)今後の希少昆虫保全のあり方を考える上で,本学会への社会的要請がより強く求められることが予想される他,侵略的外来種等にも迅速に対応するネットワークの構築が急務であり,他の専門機関と連動した新たな体制が不可欠となるだろう.</p>

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