オーストラリアにおける砂漠都市の大都市化・ゴースト化の動向

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  • The Trends of Metropolitanization and Ghosting of Desert Cities in W. Australia, AU

抄録

Ⅰ. はじめに<br> 21世紀はアジア、アフリカなど途上国での爆発的な人口増加と、それにともなう居住地の拡大が乾燥地にも及ぶことが懸念されている(MA, 2005)。これに対し筆者は、これまでアメリカ合衆国南西部、とりわけアリゾナ州での研究成果から、乾燥度の高い地域でも一定の産業集積など存立基盤の維持を条件に都市の存続は可能であり、インフラの整備などの条件が整うことで大都市化の進展も期待できることがわかった。他方で、鉱産資源開発にともなって形成された中心地の多くでは、資源枯渇化後の極端な人口減少や地区の衰退・消滅などのゴースト化が認められ、小規模中心地の持続性が低いことが明らかとなった。本報告ではアリゾナ州での動向と比較しながら、Livability(住みよさ)の高いオーストラリアの主要都市の状況と、鉱産資源開発の一大中心地である西オーストラリア州のゴールドフィールドでの小規模中心地の存立基盤とゴースト化の動向について検討し、その特徴を明らかにしたい。<br><br>Ⅱ. オーストラリア主要都市の大都市化の動向<br> オーストラリア大陸は、内陸部と沿岸部との乾燥度(年降水量)の較差が大きく、都市の多くは沿岸部に集中している。こうした自然環境の特性から、オーストラリア大陸では居住可能な地域には制約があり、水資源確保が可能な都市地域への人口集中が進む傾向が早くからみられた。2016年現在、オーストラリアの都市圏のうち、シドニー(503.0万)、メルボルン(472.5万)、ブリスベン(236.0万)、パース(202.2万)、アデレード(132.4万)は都市圏人口が100万を超えるが、人口が10万以上を有する都市圏は全国でも17に過ぎない。これらの主要5大都市圏への人口集中度は1911年の40.3%から2016年には66.1%に上昇している。近年オーストラリアの主要都市は、EIU、Mercerなどによる国際的なリバブル・シティ(住みよい都市)のランキングで上位を占め、高い評価を受けている。他方、水資源に乏しい乾燥地での大都市化には課題も付きまとう。つまり、一部の大都市に人口が集中化したオーストラリアの主要都市では、水資源問題が深刻化しており、市民生活レベルでの節水(シャワーの使用時間の制限、庭木への散水の制約など)では十分ではなく、淡水化プラントの建設や他地域からの水の輸送なども必要となっている。<br><br>Ⅲ. 西オーストラリア州での旧鉱産集落のゴースト化の動向<br> 西オーストラリア州のゴールドフィールドは、金鉱を産出する一大地帯で大小様々な規模の金鉱山が広範囲に点在している。当該地域を代表する金鉱山がスーパーピットで、巨大な露天掘りによる採掘が行われている。ゴールドフィールドの中心都市カルグーリー=ボールダー市は人口約3.3万人の小都市で、広範なゴールドフィールドの鉱山などに就業する居住者を支えている。この地域の盛衰の概要は次の通りである。 <br> 乾燥度の高いこの地域で1893年に金が発見されると、その5年後の1898年には2,018人の人口が記録された。金の採掘とそれにともなう人口増加には、水資源と採掘された金鉱を運搬する手段が必要となった。パースとカルグーリー間の約600kmを結ぶ東ゴールドフィールド鉄道は1897年に、同じくパースからカルグーリーに水を供給するパイプラインは1903年に完成した。このパイプラインは現在も、ゴールドフィールドの約3万3千世帯、約10万人以上に水を供給している。<br> ゴールドフィールド一帯には、小規模な金鉱山が多数あり一部は現在でも稼働しているものもあるが、すでに資源枯渇化のために閉山となり、旧鉱産集落のほとんどはゴースト化している。カルグーリー=ボールダー市の北に位置するメンジーズ郡は、日本の国土のおよそ1/3に匹敵する約12.5万㎢の面積をもつが、郡の中心となるメンジーズの2016年の人口はわずか108人である。メンジーズは1894年に金が発見されると、1900年には約1万人の人口を数え、1901年には町役場も設置された。ゴールドラッシュは約10年続いたが、1905年には人口は1千人以下に減少した。こうしたことから、単純な比較はできないが、アメリカ合衆国アリゾナ州での鉱産資源開発起源の砂漠中心地と比べ、ゴールドフィールドは広域に及ぶ豊富な資源の存在から、資源が枯渇化しても容易に周辺に新たな鉱産開発が可能であるために、労働者のモビリティが高く短期間に多くの集落でゴースト化が進展したと推察される。<br><br> 本研究は、鳥取大学乾燥地研究センターの平成28~29年度共同研究である「オーストラリアにおける砂漠都市の大都市化・ゴースト化の動向」(山下博樹)の成果の一部である。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001288040797824
  • NII論文ID
    130007411814
  • DOI
    10.14866/ajg.2018s.0_000035
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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