永久凍土の季節的変動が溶存鉄の挙動に与える影響

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  • Effects of seasonal thawing of permafrost on the behavior of dissolved iron

抄録

1. はじめに<br><br> 鉄は光合成や窒素固定等の代謝過程において不可欠な微量金属である。国際プロジェクトであるアムール・オホーツクプロジェクト(2005-2009)は、アムール川流域の湿原を起源とする豊富な鉄によってオホーツク海の基礎生産の約60%が支えられていることを明らかにした。この報告は、陸域環境と海洋生態系の密接な関係性を定量的に示した初の研究成果であり、湿原面積の変動が海への鉄供給に大きな影響を与えることを示唆した。しかしアムール川本流の溶存鉄濃度の長期観測では湿原の増減で説明できない溶存鉄濃度変動が観測されている。この変動要因として我々が現在注目しているのが永久凍土である。永久凍土の季節的融解は、土壌の湿潤・還元環境化を促し、溶存鉄の生成及び河川の溶存鉄濃度へ影響していると考えられる。本報告では、凍土融解期(5月~10月)において土壌間隙水及び河川水を定期採水し、溶存鉄濃度の観測結果から永久凍土の季節的変動が溶存鉄の挙動に与える影響について報告する。<br><br><br>2. 対象地と方法<br><br> 極東ロシアのハバロフスク州西部のティルマ村近郊を流れるソフロン川流域で調査を行った。ティルマは点在的永久凍土地帯であり、現地調査で平坦な谷部や尾根部に永久凍土の存在を確認している。ソフロン川流域の谷部・斜面・尾根部にかけて設定した観測地点に、深さ20cm及び40cmに、また融雪期には10cm程度の浅い深度にもポーラスカップを設置した。シリンジ吸引法により2017年5月-10月まで土壌間隙水の採水を月2回行った。また間隙水採水日と同日にソフロン川の河川水も採取した。なお間隙水及び河川水は採水後ただちにディスポーザブルの0.45μmフィルターでろ過し、河川水は溶存鉄濃度の他にDOC測定用の試水も採取した。溶存鉄濃度(以下dFe)は試水にHNO₃を数滴添加しpH<2としたうえでICP-MS(Aglient 7500cx)により、DOCはTOC計(SHIMAZU)により測定した。<br><br><br>3. 結果と考察<br><br>ソフロン川のdFe濃度は融雪期に1.1mg/Lまで増加し、その後は7月後半にわずかに増加した(図1)。一方間隙水dFe濃度は、融雪期及び8月以降に3mg/L~5mg/Lと高濃度を示す特徴的な変動が、谷部・斜面・尾根部と多くの観測地点で20cm,40cmの両深度で確認された。融雪期に間隙水dFe濃度が高い要因としては、凍土面が浅く位置するため融雪水が地表まで冠水し、表土の還元環境化やリター類からの有機酸溶出がpHの低下及び有機態鉄の形成を助長したことが考えられる。よって融雪水の流出と共に大量のdFeが流出し、ソフロン川のdFe濃度も増加したと考えられる。また間隙水dFe濃度は8月以降にも流域全体で5mg/L程度まで増加した。融解して間もない6月と7月は1mg/L程度であったことから、融解により湿潤化した土壌で直ちにdFeが生成されているのではなく、NO₃⁻やMn等の他の最終電子受容体が消費されることで、dFe生成が生じる還元環境に発達したと考えられる。しかし間隙水でdFe濃度が増加した一方で、8月以降にソフロン川でdFe濃度増加はみられない。また年間を通してDOCとdFeが有意な正相関をもつ(R=0.71, p<0.01)。このことから、永久凍土の融解は土壌の還元環境化及びdFe生成に寄与するが、河川へ流出しているdFeは溶存態の中でも安定に存在及び移動ができる一部の有機態鉄と考えられ、Fe(Ⅱ)等の不安定なdFeは土壌内の流動過程で酸化され粒子化している可能性がある。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001288040812032
  • NII論文ID
    130007411921
  • DOI
    10.14866/ajg.2018s.0_000182
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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