三峡地域における観光発展の特徴 ―重慶市巫山県を事例として―

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  • Characteristic of Tourism Development in the Three Gorges Region<br><br>-A Case of Wushan Prefecture in Chongqing City -

抄録

1)研究の背景<br> 長江三峡は中国政府に認定された国家を代表する知名度の高い景勝地・観光地である。三峡地域の観光は長江三峡ダム建設以前の1990年代まで、三峡下りに代表される「川下り」であった。しかしダム完成後、三峡下りはクルーズ旅による旅へと変化し、クルーズ船の寄港地が観光スポットとなった。長江三峡ダムの建造によって、景勝地であった三峡の風景が変化し、従来の三峡下り観光は衰退の様相を呈していくこととなった。巫山県では,山峡下り観光衰退への対策として、観光客のニーズに合う,地域資源を活用し,周辺地域の住民をターゲットとした新たな観光形態と観光スポットの創出を行っている。<br><br>2)研究目的と研究対象地域<br><br> 本報告は三峡地域における観光形態の変化を明らかにするとともに、中国における条件不利地域における観光発展の特徴を明らかにすることを目的とする。<br><br> 研究対象地域とする重慶市巫山県は三峡地域の奥に位置し、三峡観光の中に最も有名な観光スポット(小三峡)を持っている。山地面積が地域全体の96%を占め、平地面積はわずか4%に過ぎず、中国内陸部のなかでも条件不利地域に位置している。<br><br>3)調査方法と調査内容<br><br> 巫山県において、地元住民と観光客に対して聞き取り調査を実施し、観光客の行動と地元住民における観光への取り組みに関して検討する。<br><br> 観光客に関する聞き取り調査は、夏季の三峡下り客と秋季の紅葉観賞客を対象に実施した。調査内容は主に観光客の行動と観光目的である。地元住民の調査は、観光埠頭および周辺の屋台のオーナーと市街地に立地する大規模なホテルの支配人を対象に実施した。調査内容は個人オーナーに対して巫山県の観光及び観光客についての考え方を伺い、ホテルの支配人に対しては、年間の稼働率と宿泊客の属性に関するデータを収集した。<br><br>4)結論<br><br>(1)三峡下りの観光形態は、上陸見学を主とした「物見遊山型観光」から、クルーズ船による船旅自体を目的とする「体験型観光」へ変化している。<br><br>(2)近年では,地域主催のイベントである「紅葉祭り」により来訪者数が増加している。巫山紅葉の名は周辺地域に広がっている。「紅葉祭り」による来訪者の多くは、レジャー目的による一泊二日の短期旅行者である。地域主催イベントによる観光集客圏は比較的狭く,周辺地域に限られていることが考えられる。<br><br>(3)地元住民は観光客に対する関心は相対的に低く、地域内でのつながりを重視している。周辺の景観への関心も高くないことがわかった。ホテルでの聞き取りによると、観光客の宿泊率が高いのは,秋のイベント開催時に限られており、観光客向けの特別な取り組みもみられない。<br><br>(4)地域住民の多くが観光に無関心であるのに対して、巫山県などの地域行政は積極的に観光事業を取り組んでいる。長江三峡というブランドを維持しつつ、新たな地域的特色を持つ観光ブランドの開発に取り組んでいる。そこでは点在する観光スポットから面的な観光地への展開を目指す動きがみられる。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001288042505344
  • NII論文ID
    130007411980
  • DOI
    10.14866/ajg.2018s.0_000138
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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