パソコンでできるECDスペクトルシミュレーションによる有機化合物の絶対配置決定

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • Determination of Absolute Configurations for Organic Compounds via ECD Spectra Simulation on PCs

抄録

<p>【ECDスペクトルシミュレーションの概略】</p><p> 円二色性と波長の関係を表すスペクトルのうち、紫外および可視領域における光エネルギーの吸収、すなわちキラル分子のp電子系がもつ固有の電子遷移にもとづく吸収を観測するのが電子円二色性(ECD)スペクトルであり、これは数十マイクログラムの試料でも充分に測定可能な、NMRよりはるかに高感度な分析手法である。また、ECDスペクトルは一般に溶液状態で測定されるため、X線結晶解析とは異なり、試料は単結晶である必要がない。従ってECDスペクトルの解釈により、微量試料で絶対配置の決定が可能になってくる。</p><p> これまでECDスペクトルの解釈は、ジベンゾアート則やオクタント則など、経験と照らし合わせた絶対配置帰属が主流であった。ただし、この場合には配座解析が基本となるため、発色団の三次元的位置がはっきりしない中員環や非環式分子にこれを適用させるには限界もあった。近年、計算機性能の進歩とソフトウェアの発展によって立体配座の解析精度も飛躍的に向上し、これらの分子へも適用可能性が高くなっている。現在では、パソコンを用いて天然有機化合物の各種物性を予測できるようになっており、ECDスペクトルの予測もかなり信頼できる1。有機化合物の構造決定で実験的手法の限界に直面した場合でも、ある程度の強度で実際にECDスペクトルが観測されるなら、パソコンを使ったシミュレーションから得られるECDとの比較により、絶対配置は充分に決定可能である。</p><p> 標準的なECDスペクトル予測の手順2は次の通りである。まず興味ある分子の安定配座を低い近似で網羅的に探索し、段階的に近似を上げながらその分子の性質に対して寄与の大きい安定配座を精度良く選び、以下の計算を現実に実行可能な数まで安定配座を絞り込む。続いて寄与の大きい安定配座の旋光強度を量子化学計算によって求め、得られた旋光強度をガウス分布で表したものがその配座の理論ECDスペクトルである。理論ECDスペクトルは多くの場合、寄与の大きい安定配座のボルツマン分布を考慮して加重平均化する。計算は使うソフトウェアのアルゴリズムに従って計算機により実行されるので、シミュレーションで実際にユーザーがおこなうのは、安定配座の絞り込みと各手順の計算方法や条件の選択である。</p><p> 実際のECDスペクトル予測では、どの計算においても必ず何らかの近似を前提とするため、計算の方法や条件の選択によって計算時間も計算結果も大きく変わる。現在のところECDスペクトル予測のための条件選択は経験と試行錯誤に頼るところが大きく、天然物化学者にとっては多様な天然物に対応する情報の蓄積が重要であり詳細報告は経験にも値すると考えた。本研究では、実際に我々が天然物の絶対配置決定にECDスペクトル予測し応用に成功した例を、具体的な計算方法の詳細とともに報告する。</p><p>【高精度の配座解析により可能となったCAF-603の絶対配置決定】3</p><p> CAF-603は強い抗菌活性物質として以前から知られているが、その絶対配置は未決定であった。白神山地の土壌から得られた</p><p>(View PDFfor the rest of the abstract.)</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001288045056384
  • NII論文ID
    130007399595
  • DOI
    10.24496/tennenyuki.56.0_poster65
  • ISSN
    24331856
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ