高等学校家庭科におけるゲスト・ティーチャーが授業にもたらす効果

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書誌事項

タイトル別名
  • The effects of guest teacher who was participated in the home economics lessons in high school
  • 男性家庭科教師を招いた授業の考察から
  • From the consideration of classes that male home economics teacher was invited

抄録

【問題の所在と目的】<br> 2017年の学習指導要領の改訂において、「社会に開かれた教育課程」が掲げられ、学校と社会が接点を保ちながら教育を展開していくことが重要課題の一つとされた(文部科学省 2015)。国際的な課題の一つとして、学校の学びが社会といかにつながりをもっていくかということは、以前から議論が重ねられてきた(ハーグリーブス 2012、小玉 2013)。特に、先進諸国では、学校での学びが外の世界に開かれておらず閉鎖的なものとなることへの危惧が指摘されている(ウィッティ 2004)。<br> 日本国内では、学校と社会のつながりが子供の学力向上(志水 2014)や学校運営の向上(露口 2016)の要因であることが証明されており、関心の高い課題として取り上げられている。しかし、学力向上や学校運営の向上という側面での一効果は確認できるものの、学校での学びが学校の外でどのような価値を持ちうるかという点については今後の課題として残っている。<br> 家庭科教育は、これまでに学校外部の人材と連携することで社会とつながりをもった実践を積み重ねており、これから必要とされる教育の文脈の中で、その実践を分析・考察していくことは家庭科教育の捉え直しのみならず、これからの学校教育へ示唆を与えるものとなるだろう。<br> 以上のことより、学校外部の人材(以下、ゲスト・ティーチャー)を取り入れた家庭科教育の実践を考察し、ゲスト・ティーチャーが授業にもたらす効果を明らかにすることを本研究の目的とする。<br>【研究対象と方法】<br> 研究の対象となるのは、2016年6月に神奈川県下の私立S高校で行われた「家庭総合」の授業で(2年生45名)、ゲストに男性家庭科教師を招いて実施された。ゲスト・ティーチャーが教師と生徒にもたらす効果を分析するために、教師へのインタビュー調査、教師とゲスト・ティーチャーによる授業前カンファレンスの談話分析、授業内容の記録、授業後の生徒による振り返り用紙の記述分析を行った。<br>【結果および考察】<br> 対象授業は教師がゲスト・ティーチャーへ質問をしていくインタビュー形式で行われ、その後、生徒はグループでゲスト・ティーチャーへの質問を考え応答してもらうという流れで行われた。教師は「男性家庭科教師」という自分には代わることのできない存在を生徒と出会わせることにより、生徒の考えに変化が起きることを期待していた。<br> 授業前カンファレンスから明らかになったことは、授業目標や内容を共有するだけではなく、ゲスト・ティーチャーが効果的に機能するため、互いにどのような役割で授業を行うのかを確認していた。ゲスト・ティーチャーに授業を委ねるのではなく、教師にとって授業のパートナーという位置づけであった。また、ゲスト・ティーチャーの意見を授業に取り入れることにより、授業が精緻化されていたことも大きな効果の一つであった。<br> 生徒の振り返り用紙の記述分析を行ったところ、ゲスト・ティーチャーは生徒にとって①思考を深める契機を与える、②社会を表すロール・モデル、③自分の生活について考える契機を与える、④社会と出会う経験をもたらす、⑤自分の意見を社会に開く契機を与える存在となっていたことが明らかになった。ゲスト・ティーチャーと出会うことにより、授業で学んでいた「性別役割分業意識」という知識に具体性が付与され、自己や社会について思考を深めていたことは、もっとも大きな効果と言えるだろう。<br> また、教師が、学習内容に適した質問事項を設けてインタビュー形式で行ったことが、生徒の気づきを促した要因として考えられる。教師がゲスト・ティーチャーの言葉を引き出すことにより、ゲスト・ティーチャーの存在を生徒の目前に示すことができていた。<br> 以上、実践分析を踏まえると、ゲスト・ティーチャーは教師にとって授業パートナーとして位置付けることができ、授業づくりという授業外の部分でも教師に影響を与えていた。また、生徒にとって、ゲスト・ティーチャーとの出会いを通して、学んだ知識を自分や社会とのつながりの中で捉え直していたことが明らかになった。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001288068852224
  • NII論文ID
    130007472532
  • DOI
    10.11549/jhee.61.0_13
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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