衝突反応における形状共鳴の系統的な見方

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タイトル別名
  • A Systematic Way of Looking at Shape Resonances in Reactive Collisions
  • ショウトツ ハンノウ ニ オケル ケイジョウ キョウメイ ノ ケイトウテキ ナ ミカタ

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抄録

<p>物理現象においてポテンシャル障壁が大きな役割を果たすことが多々ある.原子・分子衝突の相対運動を支配する相互作用の多くは,距離Rの大きなところでR-2より速く0になる引力型であり,遠心力(∝R-2)と相互作用の和で定義される有効ポテンシャルに局所的最大すなわち障壁が現れる.特定のエネルギーでの衝突で一時的にこの障壁の内側に準安定な量子状態準位が形成されることを形状共鳴散乱(あるいはポテンシャル共鳴散乱)と呼ぶ.形状共鳴の例を水素分子H2で見てみよう.H2は回転量子数がJ≤31でないと振動の束縛状態は存在しない.J≥32だと分子は遠心力で壊れてしまうが,例えばJ=32でも準安定振動準位が3つほど存在し,形状共鳴状態として考えることができる.</p><p>原子・分子衝突で反応を引き起こす相互作用は短距離力であることが多い.障壁が反応相互作用領域よりずっと外側にあると,形状共鳴という形で反応過程に多大な影響を及ぼし得る.一番特徴的なこととして,準安定状態が形成される共鳴エネルギーの近傍で衝突粒子が反応領域内に長く滞在し相互作用を強く受け,その結果,反応が促進されて反応断面積にピーク構造が現れる.これによる断面積の増加は一般に無視できず,共鳴現象は応用分野にとっても大きな関心事である.正確な反応速度を得るには共鳴の影響をもれなく把握しないといけない.</p><p>H2の例で見たように,形状共鳴は角運動量Jで識別される部分波ごとの現象である.散乱の量子論に従えば各部分波に反応確率Pが定義でき,この値は0と1の間をとる.共鳴散乱の議論を明確にするためにはこの反応確率で考える方が適している.ここで,次のような問いかけをしてみよう.</p><p>(1)共鳴が起きていないときの反応確率をP0としたとき,常にP0~0であるような衝突系は共鳴によって反応確率が劇的に増えることが期待できる.ならばどこまで大きくなり得るのか? また,最大のP=1になるにはどんな条件が必要なのか?</p><p>(2)逆にP0~1であるような反応性の高い衝突系に共鳴現象が存在するのか?</p><p>(3)原子・分子衝突反応では非常にたくさんの形状共鳴が見られることがある.Li+Hだと衝突エネルギー0.1 eV以下で共鳴ピークは百本をかるく超える.個々の共鳴の反応への重要性は衝突計算をして初めてわかることが多いが,こういった計算なしに何かしらの情報を得ることはできないだろうか?</p><p>これまで量子力学や散乱の教科書・総説等で弾性散乱の形状共鳴について詳しく論じられているが,質問(1)–(3)に答えられるような衝突反応に特化した議論はほとんど見当たらない.そこで,Wentzel-Kramers-Brillouin近似をベースにし,衝突反応の形状共鳴現象について今までとは違った見方で系統的に理解することを考えたい.この見方は,原子・分子衝突反応に限らず,ポテンシャル障壁が重要になる現象一般に通用するであろう.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 73 (1), 6-14, 2018-01-05

    一般社団法人 日本物理学会

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