原子干渉計を用いたベリー位相の測定 (解説)

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タイトル別名
  • Precise Measurements of Berry Phase Using an Atom Interferometer
  • 原子干渉計を用いたベリー位相の測定
  • ゲンシ カンショウケイ オ モチイタ ベリー イソウ ノ ソクテイ

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抄録

球面上のある閉曲線に沿ってベクトルをぐるりと1周平行移動させると,元に戻ったベクトルは最初のベクトルと別の方向を向いてしまうことがある.このベクトルの向きの変化は閉曲線が囲む面の曲率と面積だけで決まる.これと同じことが量子系で起こることを1984年M. V. Berry(ベリー)が発見した.例えば,スピンを持った粒子に磁場を印加し,磁場の方向を回転軸周りに断熱的に1回転させると,スピンの波動関数の位相は最初の状態の位相と比べると,力やポテンシャルによる動力学的位相とは別に,スピン量子数と立体角との積で決まる量だけ変化している.フェルミ粒子に印加する磁場を1回転させると波動関数の符号が反転するのもこの例である.量子系に現れる幾何学的位相をベリー位相と呼ぶが,これまでにさまざまな量子系で干渉,偏光(極)を用いて検証された.それらには,ベリーの提案にあるスピン粒子の実空間での方向回転だけでなく,ポアンカレ球上の光の偏光状態の回転,ブロッホ球上の2準位粒子など実空間ではないパラメーター空間上での回転も含まれる.また,時間的に一定な回転は関与するスペクトルの周波数シフトを引き起こすことも見つけられた.さらに,理論的な研究は,ベリー位相の条件を非断熱過程,部分回転などを含む一般的条件のもとに拡張した.このように,発見から30年が経つ今日,ベリー位相は量子系では良く知られた現象となり,種々の量子物理現象との類似性が議論され,原子操作や光操作,量子演算などに応用されている.しかしながら,実験の立場からベリー位相を検証してみようとすると,大きな動力学的位相に埋もれて検出が難しい.そのため,多くの検証実験では動力学的位相が現れにくい系を用いて行われる.これまで,中性子のスピンフリップや光の偏光状態変化によるパラメーター空間での測定が検証研究に用いられてきた.一方,原子系は豊富な磁気量子数の準位を持っているので,これらの準位を用いた原子干渉計は実空間での方向回転のベリー位相の測定に適している.しかも,符号の異なるg因子を持つ超微細構造準位間には,ゼーマン効果による磁場依存性がほとんど無い遷移がある.そこで,筆者は学生達と異符号のg因子を持つ状態間の遷移を使って原子干渉計を構成し,磁場の方向を回転させて生じるベリー位相の測定を行った.磁場の1回転後の位相シフト,磁場回転下での共鳴周波数シフト,部分回転位相などについて測定したので,その結果について紹介する.

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 69 (11), 753-762, 2014-11-05

    一般社団法人 日本物理学会

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