第一次世界大戦と税財政政策
書誌事項
- タイトル別名
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- The impact of World War I on Japanese tax policy
- 総力戦における戦時利得税の導入とその意義
- The introduction and historical significance of a war profits tax in terms of total war
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説明
1918年に日本が導入した戦時利得税は戦時に発生した所得に課税される一種の所得税であるが、同税は成金に対する申しわけ的な課税という評価がされるにとどまっている。しかし同税は大戦中多くの国で導入され、総動員体制を支える政策としての性格を有している。本稿は、交戦国における同税の意義とそれが如何にして日本に紹介され、導入されるに至ったかについて再検討を行い、第一次世界大戦が日本に及ぼした制度的・政策思想的影響の一端を明らかにすることを目的としている。<br> 例えば英国などの主要交戦国では同税によって企業・資本家層にも戦争の負担を負わせることで、一般国民の感情を慰撫し彼らの戦時協力を維持する狙いが存在していた。多くの国民が兵役や産業動員に従事する中で、戦費=税金の流れ込む企業が巨利を得るという状況は看過されるべきものではなかった。これは通常の経済活動の結果としての貧富の格差とは区別され、政府が労働統制を進める中で交換条件として戦時所得への課税が導入されていったのである。<br> 一方で日本のマスメディアにおいては偶然利得の持つ担税力への注目や分配の不平等に対する社会政策上の必要性が基本認識として示されているが、同時に主要交戦国でみられた上記のロジックも多く用いられた。更に総力戦における国民強化のための社会政策として同税を支持する論説も散見された。主要交戦国の経験は同税への日本国民の支持を広めるため積極的に普及されたのである。<br> 当初大蔵省は財界の保護に重点を置き、利得税ではなく戦時超過利益特別積立法案の提出を準備していた。しかしシベリアへの出兵構想が持ち上がると財界への配慮は薄れ、戦費調達を主目的として第四〇議会に同税を提出するに至った。大蔵省は大戦にともなう経済的混乱に対して同税が有効であることも認識しており、戦時政策としての社会政策という理解を持ちつつあった。<br> 同税は形を変えて第一次大戦後にも存続していく。総動員政策と社会政策の表裏関係は日本においても戦時利得税という形でこの時期既に萌芽的に表現されており、それは第一次大戦が日本に及ぼした影響の一端であった。
収録刊行物
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- 史学雑誌
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史学雑誌 125 (8), 37-61, 2016
公益財団法人 史学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001288081930624
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- NII論文ID
- 130007496793
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- ISSN
- 24242616
- 00182478
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可