南京国民政府時期における刑事上訴制度

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タイトル別名
  • The criminal appeals system during the Republic of China's Nanjing era
  • ナンキン コクミン セイフ ジキ ニ オケル ケイジ ジョウソ セイド

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抄録

本稿は、南京国民政府時期における刑事上訴制度の運用実態を分析し、20世紀前半の中国において近代西洋型の刑事司法制度が成立したことの意味を検討するものである。<br> 上訴制度とは、未確定の裁判について、上級裁判所の審判による救済を求める不服申し立ての制度である。清代中国にも、上級機関が下級機関の判決を審理する制度や、下級機関の判断を不服とした当事者が、上級機関に是正を求めて訴える手続きは存在したが、それらは近代西洋型法制における上訴制度とは異なるものである。よって、上訴制度の成立は、20世紀の中国における法秩序の形成過程において注目すべき事項の一つである。<br> 本稿が分析対象とする南京国民政府時期は、清末以来の司法改革の中で成立した新たな法律制度の運用が試みられた時代として重要な意味を持つ。当該時期に注目することで、近代西洋型法制の制定が中国社会に与えた影響を明らかにすることができるだろう。<br> 本稿の結論は以下の通りにまとめられる。清末民国期における司法改革の中で成立した刑事上訴制度は、かなり整備されたものではあったが、司法機関が処理すべき案件の増加や、訴訟の長期化に伴う被告側の負担増加という弊害が生じる可能性も内包していた。しかし、それでも、多くの刑事事件において、主に被告側から上訴が提起され、法院はそれを受理していた。そして都市部を中心に、上訴制度は一定程度機能するようになっていた。刑事事件の被告にとって、上訴を提起することは、不当な判決から救済されるために必要不可欠な手段であった。また司法機関にとって、上訴制度は、可能な限り事件の真相を明らかにし、冤罪を防ぐという点で、大いに意味のあるものであった。こうして近代西洋型の刑事上訴制度が被告の救済措置として確立したということに、20世紀前半の中国における司法改革事業の意義を見出すことができる。

収録刊行物

  • 史学雑誌

    史学雑誌 126 (9), 1-37, 2017

    公益財団法人 史学会

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