ケニア山とキリマンジャロの近年の氷河縮小とその自然や社会に与える影響

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  • Impact of recent glacial reduction on nature and local society in Mt. Kenya and Kilimanjaro

抄録

1.ケニア山の氷河縮小<br> ケニア山(5,199m)の氷河は急速に縮小し、最大の氷河であるルイス氷河も2つに分離してしまった。ケニア山のティンダル氷河の後退速度は、1958-1996年には約3m/年であったが、1997-2017年は年に8m~15mと急速に縮小している。氷河の下には埋没氷も発見されたが、それもそれほど大きなものでないことが判明した。<br><br>2. キリマンジャロの氷河縮小<br><br> キリマンジャロ(5,895m)の氷河は近年急速に後退している。キリマンジャロの氷河の垂直な氷壁の後退は、太陽放射による融解(氷が太陽放射そのものを吸収し、氷そのものが昇温する結果生じる融解)が原因で(Molget al. 2003)、氷河の水平な頂部の減量は、氷が直接気化する昇華によっているとされている(Molg and Hardy 2004)。すなわち、気温上昇に伴い、気温が融点(0度)に達することによって、その熱が伝わり氷を溶かすという気温上昇の影響はあまり受けていないとされてきた (Kaser and et al., 2004) 。実際に、2000年頃まではキリマンジャロではそのような氷河縮小の形態である階段状の氷河や氷壁が見られた。<br><br> しかし、近年は階段状の氷河はほとんど融けてしまい、最高峰のウフルピーク付近の氷壁やカルデラ内の氷壁も、明らかに融解した後、再度凍った氷柱などがよく見られるようになってきた。これは、近年の温暖化の影響で、昇華による氷河の縮小より、融解による氷河の縮小のほうが進行していることが推察される。<br><br>3.ケニア山やキリマンジャロの氷河縮小が自然や社会に与える影響<br><br> ケニア山やキリマンジャロの氷河と山麓水資源の関係性を酸素・水素同位体比を用いて開析した結果、両山ともに山麓湧水は氷河融解水が主な涵養源になっている可能性が示唆された(大谷,2018)。また、それらの山頂付近の氷河融解水は約50年かけて地下水として運ばれ、山麓に湧水していることも判明した(大谷,2018)。<br><br> ケニア山とキリマンジャロの山麓の河川水位が近年減少しているが、降水量が顕著に減っているわけではないため、氷河の涵養水の減少が影響している可能性が考えられる。現在の氷河縮小の影響は50年後に現れるため、将来の山麓住民の生活に少なからず影響があることが予想される。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001288095525120
  • NII論文ID
    130007539829
  • DOI
    10.14866/ajg.2018a.0_23
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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