『御坊市を中心とせる7.18水害誌』にみる被災地への食料供給
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- 荒木 一視
- 立命館大学
書誌事項
- タイトル別名
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- Food supply for the disaster area of 7.18 Flood around Gobo
- Soup Kitchen(<i>takidashi</i>) after the flood
- 炊き出しを中心に
説明
ここでいう7.18水害(紀州大水害)とは1953年7月18日に和歌山県を襲った水害で,和歌山県内で死者・行方不明者1,015人,負傷者5,709人,家屋全壊3,209棟,家屋流出3,986棟,床上浸水12,734棟,床下浸水15,313棟,道路損壊8,102箇所,橋梁流失1,293箇所という大きな被害をもたらした。本報告ではこの水害に着目し,堤防の決壊により深刻な被害を受けた御坊周辺での炊き出しの実施状況を取り上げる。典拠としたのは標記水害誌の詳細な記録であり,当時の被災地への食料供給を中心とした救援活動の実態を検討する。過去の災害における救援活動を検討することを通じて,現在の被災地への救援活動の課題を提起したい。<br><br>なお,御坊市は1954年4月に和歌山県日高郡御坊町,湯川村,藤田村,野口村,名田村,塩屋村が合併して発足したもので,被災当時は御坊町であった。ただし,水害誌の刊行は合併後であり,水害誌のタイトルは御坊市となっている。<br><br> 御坊町内外を含め広い範囲が浸水し,市街地中心部では最大で2メートルを超え,北部の御坊駅周辺でも1メートルに達したという。御坊町では死者26,行方不明者100,重軽傷者約3,000,推定床上浸水4,000うち流失365とされている。この他に湯川村では死者1,行方不明者1,重軽傷者60名,床上浸水555,床下浸水250,藤田村では重軽傷者20,家屋前回100,家屋流失30,家屋半壊150,床上浸水150,床下浸水30,野口村では死者30,行方不明者24軽傷者100,家屋全壊30,家屋流失105,家屋半壊100,床上浸水80,名田村では床上浸水2,床下浸水40,塩屋村では使者8,行方不明30,重軽傷者67,家屋全壊14,家屋流失48,家屋半壊24,床上浸水95,床下浸水25が報告されている。<br><br> これは合併時(1954年)の御坊市の人口が31,844人であることから見ても,5,000軒の床上浸水,死者行方不明者200名,重軽傷者約3,250名というのは未曾有の災害であったと言える。<br> 同書は水害から5年後の1958年に御坊市水害誌刊行委員会によって編纂されたもので,本編部分の466ページに加えて,88ページにのぼる写真集を備えた大冊である。水害の発災からの経過や救援活動の実態などが詳細に記されており,その資料的価値は高いと考えられるとともに,当時の状況下で本書を編纂し,水害の記録を残したことの意義も極めて大きい。<br><br><br> 御坊町では小学校や役場など6カ所で32日間に渡り,実人員16,300人,のべ290,732人に対して炊き出しが実施され,期間中に米101,756kg,乾パン30,060食,パン3,000個,缶詰5,544個などが提供されている。米の供給量をのべ人員で割ると,1人1日あたり350gとなる。1950年の日本人の1人当たり米供給量は300gであることから,米に関しては不足のない量が提供されていたとみることができる。特に,実人員16,300人ということは当時の御坊町の人口の半数以上が炊き出しを受けたことになり,この人数に相当量の米を供給し得たことは評価できる。<br><br> 同様に被害の大きかった野口村でも13カ所で炊き出しが実施され,のべ43,597人(うち他村分7,797人)に対して,米14,874kg(1人1日あたり約340g)が,湯川村でも7カ所でのべ59,455人に米20,740kg(1人1日あたり約350g)が供給されている。加えて,味噌や塩,野菜,煮干,たくあん,梅干,漬物などの副食類の供給量も詳細に記録されており,十分とはいえないまでも,一定の食料供給が維持さていたことがうかがえる。<br><br> 一方で,飲料水の供給に対しては,被災直後の7月20日に空樽20個,ポンプ打ち込み2本が記録されているだけで,経費も合計16,000円にすぎない。これは炊き出しほか食品の供与費が全体で869,550円であることと比較すると軽微である。その背景には当時は上下水道が整備されておらず,多くの世帯が井戸水を利用していたことが考えられる。今日のように水害によって浄水施設やポンプが被災して水道システムが機能しなくなる事態は起こり得ず,実際に同書においても,水害直後から井戸が清冽な水を供給し続けたことが記載されている。その意味ではこの時代の方が高い災害耐性を持っていたという側面も指摘できる。
収録刊行物
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- 日本地理学会発表要旨集
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日本地理学会発表要旨集 2019s (0), 59-, 2019
公益社団法人 日本地理学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001288141877888
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- NII論文ID
- 130007628650
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可