<b>最大降水による洪水浸水想定区域図からみた低地の微地形発達史</b>

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  • <b>Simulated Flood Map and Micro Relief Development History of Lowland</b>

抄録

【背景】市町村のつくる洪水避難地図(洪水ハザードマップ)の説明に、伝統的な微地形分類図はまったく利用されない。その主たる理由は、伝統的な地形分類図では「低地はすべて浸水の可能性があるものとして、浸水したときの深さ・滞水程度の想定を述べているが、浸水頻度や浸水範囲の想定に対応していなかった」ためである。微地形分類図は微地形面の形成時間観の説明が不十分であった。応用上では、地形のなりたち(質)を述べた微地形分類図が直近の予想浸水範囲・予想浸水深(量)を示す図に代わられた。<br>私の関心は、(a) 低地の微地形分類図は何を表していたのか? 純粋地形学として、微地形の形成時間観を明らかにしたい、そのため (b)近年公表されている“最大規模降水による洪水浸水想定区域図”から、低地の微地形分類図を再評価してみることである。 1/1000確率降雨による浸水範囲となると、考古遺跡や堆積物の年代による微地形の編年(歴史的事実)との対比ができるはずである。<br>【降水想定規模】市町村のつくる洪水ハザードマップは従来(H13年~)、計画規模の降水(本川ではおおよそ1/100確率降雨、支川ではおおよそ1/50~1/30確率降雨)による浸水範囲・浸水深さを想定していたが、近年(H27年~)は最大規模の降雨による洪水浸水想定区域(おおよそ1/1000確率降雨による浸水範囲)と浸水深さを想定して避難対策の基礎としている。<br>【旧版地形図の意義】旧版地形図は「おおよそ100年程前の、連続堤のなかった時代の氾濫範囲」すなわち「おおよそ1/100確率降雨を越えて破堤した場合の氾濫範囲」を想起する参考となるのであるが、市町村のつくる洪水ハザードマップの印刷物に採用された例はなかった(と思われる)。<br><br>【段丘面と氾濫原面の識別】低地が最大浸水範囲に一致すると考えていた段階で、「最下位段丘面と氾濫原面との識別基準」すなわち「段丘面はもはや離水している洪水でも浸水しないとはどのようなことか」を、おおむね確率1/100降水による洪水浸水範囲を用いることを提案し(阿子島1999.5東北地理学会春季大会, KoreaーJapan /J-K Geomorphological Conference 1999.8)、最上川中流の寒河江市高瀬山の河岸段丘~中山町の自然堤防の考古遺跡の離水・浸水状況を述べた。それはおおむね確率1/100降水本川堤防の設計基準)で破堤したときの洪水浸水範囲が公表されるようになった頃で、あくまでも実用上の基準であった。段丘は開析されている・崖が高いといった地形のみかけではなく浸水実績によって判断されるべきである。<br>沖積世(約1万年前以降)に形成された低地のなかでも海面変動(縄海進・弥生海退イベント)の影響をうけた下流域では、 “離水しかけた自然堤防様微高地”と“埋没旧河道”を想定したことがある(阿子島,1978地理評51-8)。今回,過去1000年間では構造運動の影響が認識された。**<br><br>想定降水に対応する低地面の3区分1/100確率降雨による想定浸水範囲と1/1000確率降雨による想定浸水範囲によって、低地の微地形面は次の3区分が想定できる<br>A型. 過去1000年以上浸水していないであろう地形面<br>B型. 過去1000年間に数回以上は浸水したであろう地形面(100年に1回程度は浸水した低地面であり<br>離水しかけている微高地面。前述の実用上の段丘面)<br>C型. 数10年に1回は浸水している低地面 である。<br><br>【最上川流域でそれぞれに該当する事例】<br>A型 (1)庄内町余目活褶曲の背斜部 (2)舟形町長者原 活断層運動1kaで段丘化した可能性のある氾濫原面 (3)寒河江市高瀬山(断層の隆起側の最上川河岸段丘。縄文中期遺跡のある+10m面。縄文時代後晩期・平安時代遺跡のある+ 8m面はB型) (4)中山町柳沢扇状地(条里制が浅く埋没。1/1000確率の最上川氾濫が及ばない) (5) 天童市西沼田遺跡(最上川氾濫原内の後背湿地にある古墳時代の低湿地集落遺跡で1/1000確率降雨による洪水が及ばない)。<br>B (6) 中山町三軒家物見台自然堤防 河床から5+m(に訂正)の頂面は 古墳時代はしばしば浸水し、1ka以降は離水しかけているようである。(7) 飯豊町 最上川氾濫原のなかの段丘様微高地  (8) 長井市の野川扇状地扇端部(明瞭な最上川側刻小崖(“まま”と呼ばれる)があり、これより上に1/100確率降雨による洪水浸水は及ばないが1/1000確率降雨による最上川氾濫では小崖上まで浸水する。治水地形分類図ではこの部分を自然堤防に改訂)。<br>C (9) 山形市・中山町・天童市の最上川と支流須川合流部の自然堤防(頂面には古墳時代遺構が最大1m内外埋没している部分と数10cm程度削平された部分がある)。<br>** 東北地理学会2017.5, 2018.10で述べたものを再整理した。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001288142651008
  • NII論文ID
    130007628643
  • DOI
    10.14866/ajg.2019s.0_63
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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