Revising mapping strategy of glacial landforms in the Japanese Alps

DOI
  • Ikeda Atsushi
    Faculty of Life and Environmental Sciences, University of Tsukuba

Bibliographic Information

Other Title
  • 日本アルプスの氷河地形認定法の見直し

Abstract

目的<br> 日本アルプスでは,1970年代までに空中写真判読によって氷河起源と提案された地形が,その後に現地で行われた堆積物の記載を踏まえ,長く確かな氷河地形だとされていた。ところが2000年代半ばから,氷河起源とされていた堆積物の多くが,堆積構造や年代などの精査によって,マスムーブメントに起因していたことが明らかになった。従来の判読は,日本アルプスでは氷河の発達が悪かったことを理由に挙げ,横断面のU字形が判然としない地形も認定していく独自の論理に基づいていた。しかし,その方法論に疑義が生じた以上,従来の判読結果を無批判にデータとして採用することは難しい。そこで本研究では,欧米の教科書に載る氷河および氷河侵食地形の定量的知見に基づき,観察者の主観を極力排して,日本アルプスで認定できる氷河地形を例示する。<br>認定手順と結果<br> 検証可能な事実のみに基づく氷河地形の最大範囲は,次の手順で特定するとよいと考えられた。<br> 氷河涵養域となりえる範囲が広い(≒標高の高い山域),かつ河川侵食とマスムーブメントの影響が少ない流域を選ぶ。間氷期には一般に下流から上流に向け下刻が進行するが,河床縦断形を比較することで,下刻の影響が最上流部に及んでいない流域を選択可能である。一方,粘土を生みやすい地質帯は,地すべりによって完新世に地形が著しく変形している可能性が高いので対象から除外する。本研究では,花崗岩からなる飛驒山脈の剱沢流域を選んだ。<br> 氷河が拡大しやすい方位と面積をもつ支流を選択する。北半球の偏西風下では,主稜線の東側で積雪が多く,北を向いた谷で融雪が進みにくい。そのために北~東向きで平衡線が低い。対象流域の標高2000 mを超える範囲でみると,剱沢本流と真砂沢が北~東向きで,なおかつ流域面積が広い。氷河の規模は,降雪量が同等であれば,涵養域の面積におよそ比例するため,異常な条件さえなければ,剱沢本流に最大の,真砂沢に次ぐ規模の氷河があった。<br> 以後,剱沢流域の上半部について,国土地理院が公開している5 mメッシュの数値標高データ(DEM)から,GISソフトウェアを用いて形状に関する情報を抽出・比較し,そのうえで氷河の最拡大範囲を算出した。<br> 河床縦断形から,氷河侵食に特徴的な形状の有無を確認する。氷河は平衡線付近で流量が最大になる。そして流速が大きいほど侵食が進むため,氷食谷は中流部において縦断形が下に凸形となる。上流端のカールがその典型だが,真砂沢は中流区間でも下に凸型の縦断形が明瞭であった。剱沢本流では2段のカールが発達しており,その下流側でも不明瞭ながら下に凸型を呈す。同じく流量と侵食力の関係から,流域面積の似た氷河が合流すると,その下流で流量が倍増するため深掘れが生じる。剱沢上流では,カールが合流するたびに本流が深くなっている。一方,流域面積が大きく異なる氷河が合流すると,支流側の侵食力が小さいため懸谷となる。剱沢本流は,平蔵谷,長治郎谷,真砂沢という流域面積に大きな差のある支流を合流させるが,懸谷は生じておらず,それらの合流点の河床縦断形から氷河が合流していた痕跡は見てとれない。<br> 谷の横断形を二次式で近似する。氷食谷の横断面形は放物線でほぼ近似できる。そこで顕著な支流がなく形状が単純な真砂沢で,上流から距離200 mごとに断面形を二次式で近似した。上流端から1.8 kmの地点まではよく近似でき,2.0 kmの地点ではややずれ,2.2 km以下では近似できなくなる。つまり真砂沢では,剱沢との合流点より1 km上流までしかU字谷が存在しない。<br> 上述の2 kmとその上流側の各断面上で,氷河が取りえた厚さを見積もり,その高さで谷を埋め氷河の側縁を求める。ここでは氷河底の剪断応力の代表値(100 kPa)を生む氷河の厚さを算出した。求めた各断面の氷河側縁を結び,氷河の平面分布とした。復元された氷河の面積は,0.83 km2であった。<br> 氷河の面積のうち涵養域が占める割合(AAR)の典型的な数値(0.65)を用いて,平衡線を求める。真砂沢について復元した氷河の分布範囲で計算すると,平衡線は標高2340 mとなった。<br> 上述の平衡線高度を用い,剱沢本流についても,同様に剪断応力を100 kPa,AARを0.65として氷河分布域を求めた。その結果,氷河の長さは約4 km,面積は1.5 km2であり,末端位置は真砂沢合流点付近となった。従来の判読では,全ての支流からも氷河が合流し,長さ6.5 kmに達する氷河があったとされていた。しかし,その認定の下流側での根拠は,河床幅がやや広いことのみである。そうした地形はV字谷の埋積地形としてありふれたもので,それを氷河地形と解釈したことは,他の地形形成作用を過小評価していたことにほかならなかった。

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Details

  • CRID
    1390001288143472640
  • NII Article ID
    130007628618
  • DOI
    10.14866/ajg.2019s.0_299
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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