P-2-E14 広範囲にわたる深部静脈血栓症を呈した血栓性素因のない重症心身障害者

DOI
  • 越野 恵理
    独立行政法人 国立病院機構 富山病院 小児科
  • 奥村 亜希子
    独立行政法人 国立病院機構 富山病院 小児科
  • 高崎 麻美
    独立行政法人 国立病院機構 富山病院 小児科
  • 滝澤 昇
    独立行政法人 国立病院機構 富山病院 小児科

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抄録

はじめに 重症心身障害児(者)は、長期臥床、下肢麻痺、呼吸不全など深部静脈血栓症(以下、DVT)のリスクを多く有している。今回われわれは、突然の左下肢腫脹で発症し、左総腸骨静脈からヒラメ筋静脈に及ぶ広範囲な血栓を認めた症例を経験した。下肢の腫脹に対して、DVTを鑑別に挙げる重要性と、その治療方法について検討し、報告する。 症例 43歳女性。低酸素性脳症の後遺症として最重度知的障害があり、歩行機能の退行を認め、当院入院中。X-3日、発熱を認め気道感染としてABPC/SBTを開始した。X日に左下肢全体の腫脹が出現した。左下肢に末梢ルートを留置しており、蜂窩織炎を鑑別に挙げ、抗生剤治療を継続した。X+3日になっても腫脹は持続し、エコーで左総腸骨静脈からヒラメ筋静脈の広範囲にわたるDVTと診断した。造影CTでは肺動脈内に血栓を認めなかった。同日より選択的Xa因子阻害剤の内服を開始したところ、左下肢の周囲径は経時的に縮小し、X+17日にエコーで再疎通を確認した。以降も内服を継続し、血栓は消退傾向にある。なお、検索したかぎりでは血栓性素因は認めなかった。 考察 本症例では血栓性素因がないにもかかわらず広範囲に血栓を認めた。下肢麻痺や呼吸不全、重症感染症、中心静脈カテーテル留置など他の因子を併せ持てばDVTを発症するリスクはより高くなるが、重症心身障害児(者)でのDVT報告例は無症状で偶発的に発見されたものがほとんどである。これはDVTを他の病態として診断・治療している可能性を否定できず、下肢の腫脹に対してDVTを鑑別に挙げ、積極的に下肢エコーを行うことが重要と考える。また、今回使用した選択的Xa阻害剤は頻回な採血を伴う用量調整が不要で、出血等の副作用を伴わずに血栓の縮小を得ることができた。今後重症心身障害児(者)においても使用経験が蓄積され、安全性と有用性が確認されることを望む。

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