改善されない高校地理教科書の焼畑に関する誤記述

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  • Inappropriate description on swidden agriculture seen in high school textbooks of geography<br><br><br>Inappropriate description on swidden agriculture seen in high school textbooks of geography

抄録

報告者はかつて、2011年当時に全国で使用されていた高校地理A・B教科書(6社14冊)の中に見られる焼畑に関する全記述を拾い上げて整理検討した(佐藤 2016)。その結果、ほぼ全ての教科書の記述に誤りや偏見が見られることを指摘した。その後2016年には教科書改訂が行われたが、現在も多くの教科書では誤った記述内容はいっこうに改善されることなく、ほぼ踏襲されたままである。焼畑に対する誤解と偏見の歴史は古く、1950年代には既にH.C.Conklinの古典的な研究によって指摘されているが、とりわけ地球環境問題の文脈において焼畑が注目を浴びた1980年代以降、2010年代に至るまでの間に、焼畑の持続性に関する膨大な事例研究が蓄積されている。特に1990年代後半以降には、焼畑休閑期間と土壌養分や収量との関係に関する実証的な研究が複数現れており、その結果、焼畑が熱帯破壊の主因であるというかつて根拠のないまま流布していた主張はほぼ否定されるに至っている。要するに、研究の蓄積によって得られた知見と、教科書やメディアによって垂れ流され続ける誤った情報との間のギャップは埋まるどころかむしろ広がる一方なのが現状である。<br> メディアや教科書の焼畑記述に見られる誤りや偏見を大きく4つのパターンに分けると、(1)常畑耕地造成のための火入れ地拵えを焼畑と混同する誤り(2)焼畑を「原始的農耕」などと記述する偏見(3)熱帯林減少の主因が焼畑であるとする誤り(4)伝統的な焼畑は持続的だが、人口増加に伴って休閑期間が短縮され、結果として土地の不毛化を引き起こすという根拠のない「失楽園物語」、となる。(1)は最も低レベルの誤りであるが、種々のメディアではこの種の誤りが後を絶たない。(2)〜(4)が現在の高校教科書に見られる誤りである。(3)に関しては、熱帯林減少の主要因を地域別に検証したGeist et al. (2002)や、焼畑変容の要因を地域別に整理したVan Vliet et. al. (2012)ほかいくつかのレビュー論文が現れ、その結果、熱帯林減少は主として商品作物栽培を目的とした常畑農地の拡大や、道路建設と並行して進む木材伐採やパルプ材生産を目的とする植林地造成などによって進み、焼畑が熱帯林減少の要因となるケースは稀であることが明らかになっている。一方、(4)は最も根が深い誤りであると言え、地理学者の間ですら誤解が見られる。「人口増加→休閑の短縮化→土地の不毛化」という、未検証の仮説が前提となっているものであるが、2000年以降に発表されたいくつかの論文は、この前提とは逆に、休閑期間と焼畑収量の間にはほとんど相関が見られないという結果を示している(Mertz et al 2008)。<br> 本発表では、上に述べた「誤記述のパターン」がなぜ間違いなのかを、先行研究を引きながら簡潔に説明するとともに、現行教科書の記述を具体的に挙げながら、それらの記述の何が問題なのかを詳細に検討し、誤りを正すにはどうすれば良いのかを検討する。なお、報告者は高校地理B教科書の採択率が最も高い教科書会社に、記述の誤りを指摘する質問状を送ったが、2ヶ月経った現在回答はない。報告当日までに何らかの回答があった場合にはその内容も紹介したい。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001288144254080
  • NII論文ID
    130007628435
  • DOI
    10.14866/ajg.2019s.0_159
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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