自動車産業における技術変化と生産ネットワーク:九州地方の事例

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • Technological change and its impact on automobile production networks in Kyushu, Japan

抄録

1.はじめに<br><br> 自動車産業は「100年に一度」といわれる技術上の大転換期を迎えつつある。独自動車大手ダイムラーの前会長、ディーター・ツェッチェは、こうした技術変化をCASEと表現した。Cはconnected、すなわち自動車の常時ネット接続を意味する。以下、Aはautonomous(自動運転)、Sはshared(車の共有サービス)、Eはelectric(電気駆動)を意味する。これら4つの変化に加えて、自動車生産に関わるもう一つの大きな変化、すなわち部品のモジュール化が進行している。以上の変化によって、自動車の生産システムが大きく変わることが予想される。本報告では、電動化とモジュール化の2つの変化に焦点を絞り、九州地方を事例として自動車生産ネットワークの変動を議論したい。<br><br>2.九州地方における自動車産業<br><br> 1970年代以降、九州地方において自動車産業の集積が進行している。生産台数は136万台、国内シェアは15%に達した(2016年)。九州地方では3メーカーが4つの完成車工場を操業しているが、全工場が北部九州に立地する。日産自動車は1976年、福岡県苅田町で生産を開始し、2009年には子会社の日産車体が続いた。1992年、トヨタ自動車九州が福岡県の旧産炭地の宮若市に、2004年、ダイハツ自動車九州が大分県北部の中津市に立地した。4工場を合計した直接雇用数は1万7千人近くに達し、間接雇用を含めると北部九州で最大の雇用力を有する産業となっている。<br><br>3.モジュール化とメガ・サプライヤーの進出<br><br> 自動車産業では、部品のモジュール化(セット化)の進展に伴い企業の拡大や統合が進んでいる。独ボッシュや米デルファイなどの大手部品メーカーは、モジュール部品の生産技術を精緻化し、地球規模で納品するようになったことから、グローバル・メガ・サプライヤーと呼ばれるようになった。九州には5社が進出しているが、親企業の国籍で見ると、ドイツ系2社(ボッシュ、マーレ)、フランス系3社(フォルシア、ヴァレオ、プラスチック・オムニウム)である。親企業の世界売上順位では、1位のボッシュを筆頭に、その他の企業も10〜37位に位置する。九州進出年は2001〜11年の間であるが、これは1999年、ルノーの傘下に入った日産自動車が従来の部品取引を大幅に見直したことに伴い、ルノーと取引のあった欧州サプライヤーがやってきたためである。従業員数ではいずれも50人以下と小規模であるが、これは情報収集や研究開発を行っている段階であるためと推測される。これら5社の中でもっとも野心的なのは、ヴァレオである。かつて日産系列の部品メーカーであった市光工業の九州会社を買収し、製造を本格化している。メガ・サプライヤーの取引先については日産が多く、トヨタやダイハツとの取引は限定的であると考えられる。<br><br>4.電動化と生産ネットワーク<br><br> 環境配慮型自動車は、ハイブリッド車、プラグイン・ハイブリッド車、電動車、燃料電池車の4つに大別されるが、それらの動向に強い影響を与えるのは、政府の環境規制である。EUや中国では、日本メーカーが強いハイブリッド車を環境配慮型の範疇から除外する意向だが、それは次世代自動車生産における覇権の獲得に自国メーカーが有利になるようするためといわれる。アメリカはシェール石油資源に恵まれていることから、ガソリンを使用するハイブリッド車も重視している。電動車は、エンジンやトランスミッション、排気装置等の部品を必要としないことから、それら部品メーカーが大きな打撃を被ると、品目転換や企業統合などが進むことが予想される。さらに完成車メーカーと部品メーカーの関係にも変化が出そうである。日系メーカーは従来、同一部品を複数メーカーに発注し競争させることで、コスト削減や品質向上を図ってきたが、部品のモジュール化と相まって少数メーカーへの集中発注が進むとの予測がある。こうした動向は九州地方の自動車生産ネットワークに強い影響を及ぼすと考えられる。<br><br>※本研究はJSPS科研費 17H02429の助成を受けたものです。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001288144259200
  • NII論文ID
    130007628467
  • DOI
    10.14866/ajg.2019s.0_187
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ