血友病治療における理学療法士の役割と重要性

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抄録

<p> 血友病の臨床症状の特徴は,関節および筋肉内への出血が多いことである。度重なる筋骨格系の出血は,関節の慢性的な疼痛,腫脹,可動制限と筋力低下を引き起こしてQOLに大きな影響を及ぼすが,血友病性関節症と呼ばれるこの病態の発症予防,進展阻止(遅延),身体機能の改善に理学療法は大きな役割を果すことが知られている。</p><p> </p><p> 血友病診療の中で理学療法のかかわりを必要とするのは主として,①関節症の予防を目的とする幼年期からの一般的な指導,②急性出血時の対応,③既に関節症を起こしている患者の筋骨格系機能の改善,④手術後の機能回復である。近年の止血管理は一次定期補充療法が主流になっていて,小児患者の関節状態は以前と比べて良くなっているが,8~17歳を対象にした2017年の報告では血友病患者は健常者と比べて,持久力,レジャー/スポーツへの参加,起居/屈伸で差がみられており,定期補充療法とともに,幼児期からの理学療法のかかわりが必要なことを示している。急性出血時の対応は,筋力低下の回避や再出血の予防に役立つ。一方,小児期に十分な止血管理を受けられず,進行した関節症を抱える中高年患者への理学療法のかかわりはなお,重要なケアの一環である。また,関節手術後の機能回復の程度は,術後のリハビリにかかっているといっても過言ではない。しかも,理学療法にかかる費用は凝固因子製剤の費用に比べて極めて少なく,オランダの調査では血友病総医療費の1%未満と推定されているので費用対効果から考えても優れている。</p><p> </p><p> 血友病性関節症を含めて多様な問題を抱える血友病患者を包括的にケアするために欧米先進国では多くの血友病センターが設立されている。例えば,米国では140を超える血友病センターがあり85%以上の患者が受診しているが,これらの患者を対象とした大規模調査で,回答を寄せた4000人強の患者の98%はセンターが必要と回答している。さらに,どのような職種からのサポートが必要かという問いに対して,必要と回答した患者の割合を見ると,理学療法士は44%で,血友病専門医(83%),看護師(78%),薬剤師(50%),ソーシャルワーカー(50%)に次いで多かった。ちなみに整形外科医は24%であった。また,英国血友病センター医師会は,2017年,血友病患者の急性関節出血/慢性滑膜炎の管理指針を提唱した。その中で,関節出血の既往がある患者が受診したらできるだけ早く理学療法士に引き合わせ,今後のリハビリへの関わり方を指導することが強く推奨されている(推奨度レベル1B)。我々は,1984年,産業医科大学病院の中に北部九州血友病センター(現:産業医科大学病院血友病センター)を設立し,以降,30年以上にわたり,血友病患者の包括医療に取り組んできたが,設立時の大きなテーマは,血友病性関節症の進展阻止であった。そして,整形外科医,リハビリテーション科医,理学療法士の積極的関与により,当時の治療環境下でも,多くの患者で,関節症の発症あるいは進行を阻止することができた。</p><p> </p><p> 本年1月,日本血栓止血学会に,直轄組織として血友病診療連携委員会が設置され,遅ればせながら,我が国でも全国的な血友病診療連携が始動した。その執行機関のメンバーの中には理学療法士が参加しており,理学療法の全国レベルでの充実,強化を期待したい。</p>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 46S1 (0), H1-76-H1-76, 2019

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001288157452288
  • NII論文ID
    130007693536
  • DOI
    10.14900/cjpt.46s1.h1-76
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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