胸郭出口症候群の病態把握において重要な斜角筋三角底辺距離の調査
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- 井上 彰
- 慶友整形外科病院 リハビリテーション科
書誌事項
- タイトル別名
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- —無症候群,保存治療群,手術群における検討—
説明
<p>【はじめに、目的】</p><p>オーバーヘッドアスリートにおける胸郭出口症候群(TOS)の存在は国内外で報告されており,稀な疾患ではない.TOSにおける治療は保存療法が第一選択であり,一般的に運動療法が選択される.ChandraらははいパフォーマンスアスリートにおけるTOS保存療法の成績は33%と報告しており,決して良好とは言えない.そのような背景より,当院では保存療法に抵抗する患者に対し内視鏡下第一肋骨切除術を選択しており良好な成績を得ている.その術中所見よりTOSの病態に関与する第一肋骨上における斜角筋三角底辺距離(Inter Scalene-Distance : ISD)の狭小化について言及しており,TOSの病態における重要な因子と考えている.本研究の目的はTOSの病態に深く関わっているISDを無症候性の野球選手とTOSの診断で保存療法を選択した症例,手術に至った症例において調査し,その差異を明らかにすることである.</p><p>【方法】</p><p>対象は全例オーバーヘッドアスリートであり,無症候性の野球選手68例(平均年齢16.6歳),TOSの診断で保存療法を選択した症例148例(16.1歳), 手術に至った症例72例(16.8歳)とした.ISDは超音波検査機器(US)を用い,我々が過去に報告した方法に準じて計測した.検査肢位は上肢下垂位,頚部正中位の端座位とし,鎖骨上アプローチで行った.ランドマークは第一肋骨と鎖骨下動脈に設定し,第一肋骨は長軸に,第一肋骨上を横走する鎖骨下動脈は短軸に描出した.鎖骨下動脈と隣接する下神経幹を指標に前斜角筋と中斜角筋を同定し,両筋の第一肋骨停止部間距離をISDと定義し,第一肋骨の内側縁で計測した.また,保存・手術群においてDASH sports-module(sm)も調査した.統計は多重比較検定を用い,無症候群,保存群,手術群でISDにおける群間比較を行った.また,対応のないt検定を用いDASH smの検討も行った.</p><p>【結果】</p><p>無症候群のISDは9.1±2.8mm,保存群では7.1±3.4mm,手術群のでは5.4±3.2mmであった.すべての群間で有意な差を認めた(p<.001).DASH smは保存群で56.5±29.8点,手術群で70.1±29.1点で有意な差を認めた(p<.001).</p><p>【結論(考察も含む)】</p><p>第一肋骨上における斜角筋三角底辺距離の計測は,献体を用いた報告と生体におけるUSを用いた我々の報告のみである.これまでの報告よりISDの平均値は10mm(9-11mm)であり,本研究における無症候群と同等である.一方,保存・手術群においては有意に狭小されておりTOS症状に寄与していた可能性がある.過去の我々の報告では,手術例において患側と健側でISDに差が無くISDの狭小化は先天的な理由によるものと考えており,本研究結果を踏まえるとISDの狭小化は保存療法の抵抗因子になり得ることが示唆された.また,罹病期間の長期化は手術成績の低下を招くことが報告されており,蔓延的に保存療法を行うことは必ずしも良い結果とは言えず,ISDの狭小化例においては手術を検討する必要があると考える.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究にあたり慶友整形外科病院倫理委員会の承認を得た(承認番号:3008番).</p>
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 46S1 (0), H2-211_1-H2-211_1, 2019
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001288157476352
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- NII論文ID
- 130007693777
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可